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児童養護施設の子供たちに心のケアを

キャッキャッと子供たちの笑い声が上がり、一緒に遊ぶスタッフが優しい笑顔を見せた。ここは埼玉県川越市にある児童養護施設、「埼玉育児院」だ。児童養護施設には、両親の離婚や死亡、行方不明など、様々な理由から家族と暮らせなくなった子供たちが預けられている。養育拒否や児童虐待も少なくなく、多くの子は心に傷を抱えている。

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  埼玉育児院では現在、2歳から18歳まで62人の子供たちが生活している。「僕も一緒に洗濯する!」と、職員の後ろに笑顔でついて行く幼い男の子が いた。男性スタッフと手をつないで、楽しそうに洗濯物を運んでいる。園内には8棟の木造一軒家があり、一つの家に6人から8人が暮らす。食堂が一カ所あ り、決められた食事時間に子供たちやスタッフが集まってくる。門限や入浴は家ごとにルールがある。なるべく中学生以上は個室にしたいが、人数が多くて実現 できていないのが現状だ。

  院長の国分光雄さん(63)によると、一番の課題は、「自分が悪い」「自分に非があって入所した」と思い込んでいる子供たちの意識を変えることだ。 何かトラブルがあったとき、近所や学校、親戚、そして親も、理解しようとするのではなく、責めるだけになりがちだ。「傷が深いから、『あなたは悪くない』 と伝えても子供たちは納得しない。『あなたは悪い子じゃない』と、言い聞かし続けるしかない」

  中には、ふらふらして学校へ行かなかったり、飲酒や喫煙をしたりといった問題を起こしてしまう子供もいる。新任職員を試すように、包丁を向けた子も いるという。「その事については叱りましたが、子供達も家庭でそんな経験をたくさんしてきているんです。職員としては、うろたえずに愛情を持って対応する のが基本です」と、元スタッフの女性は話す。そのような行動は、SOSを求めるサインなのだという。国分さんは、「なるべく話を聞いて理解してあげること が大切です」という。

  しかし、実際は人手不足により、スタッフがなかなか全員に目をかけられない。昭和30年代に、子供6人につき職員1人という政府の人件費補助基準が できた。それをもとに、非常勤を含めて37人いる職員のローテーションを組むと、10人以上の子供に常に1人の職員しかいないのが実態だ。収入のほとんど を国からの補助金に頼る以上、基準以上の人数を配置するのは難しい。また、職員が定着しないことも課題だ。人件費の補助金額が子供の人数に応じて機械的に 決められ、職員の経験は考慮されず、給料を上げられないためだ。

  スタッフは、勤務外や休みの日にも子供と過ごす時間を作っているという。「本当は一人一人にもっともっと愛情をかけたいのですが、時間と体力的に難しいのが現状です」。スタッフ達の想いだ。

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※この記事は、11年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

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