ベランダの観葉植物を見せる龐癒さん=千葉県八街市の自宅

コロナ禍を転機に起業した大学生 観葉植物会社を経営する龐癒(ホウ・ユウ)さん(26)

コロナ禍での巣ごもり生活をきっかけに、植物を育てるようになった人々のライフスタイルが広がった。農林水産省の統計によると、2020年の観葉植物出荷量は13%増え、自宅を中心とした植物への需要が高まっている。その中で、コロナ禍による植物ブームをきっかけに、起業した一人の男子大学生がいる。合同会社「Chloro」を経営している龐癒(ホウ・ユウ)(26)さんに起業した経緯、植物への思いなどを聞いた。

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(千葉県八街市にある龐さんのビニールハウス=カサンサン撮影)

 

 

 

 

 

 

   千葉県八街市にあるビニールハウスを訪ね、そこで植物の世話をしている龐癒さんに会った。無口でシャイな龐さんだが、植物の話を聞くと熱く話し始めた。コロナ禍をきっかけに、龐さんは観葉植物に興味を持ち、観葉植物の面白さをもっと人々に知ってもらうために、2021年に合同会社「Chloro」を創立した。

 龐さんは1996年に中国浙江省で生まれた。2016年に金沢大学物理学部に卒業し、趣味で写真を撮る龐さんは、2020年に日本大学芸術学部の写真科に編入生として入った。人との交流が苦手な龐さんは、小さい頃から写真を撮るのが好きだったが、職業としては考えていなかったという。二度目の大学生活は龐さんにとって、「ただ挑戦するという過程を楽しみたい。ギャンブルのように、結果よりもドキドキする経験が欲しかった」という。

 龐さんが過程を楽しみたいという心境は、植物を育てることにもつながった。龐さんは一つの観葉植物を慎重に育ていくではなく、「ギャンブルのように、種を一気にたくさん買い取って、時間とお金をかけて良いものが生えてくるのを待つ」と話す。

植物が好きだが、龐さんは最初から会社を作ろうと思っていなかった。育てていくうちに、植物が成長する過程と、売り手の台湾やタイなどの外国人との交流する過程を楽しめるようになり、自身の職業としてやっていきたいと思うようになったという。

 しかし、龐さんは会社を開くことが想像以上に大変だった。初期資金は龐さん自身の貯金と親からの出資で集めたが、植物を育てるにはビニールハウスが必要なので、どこでどう建てるのかを一人で考えなければならなかったという。「場所を借りることはもちろん、ビニールハウスの構造も考える必要があった。また、工事の材料も一人で集めて、半年間の工事監理をかかさずに行った」と大変さを語った。疲れを感じることもあったが、「ビニールハウスが自身の植物で埋まっているのを見ると、やはり達成感がすごくあった」と言う。

 龐さんが主に取り扱っているのはビカクシダという観葉植物である。ビカクシダは普通の植物のように、植木鉢に育てるではなく、壁にかけるような植物で、龐さんは最初見た時にとても驚き、興味を持ったという。ビカクシダが日本で有名になったのも、他の観葉植物と同じくコロナ禍後である。龐さんは「コロナ禍によって人々が外に出られない状態になっていたので、ビカクシダを壁にかけていると、奇妙な空間だと感じて、自然を連想させるように癒やされるというお客様が多かった」とビカクシダの魅力を説明した。

(ビニールハウスにあるビカクシダ=カサンサン撮影)

 

 

 

 

 

 

 龐さんは現在、インスタグラムやホームページをはじめ、自身の撮影技術を生かし、SNSで植物を宣伝している。観葉植物を販売するのはわずか1年間しか経っていないが、これからの目標を明確に持っている。それは「外国で撮影した園芸写真集を出す」という目標である。龐さんは植物の取引で常に台湾、タイやインドネシアなどの国・地域の農家と交流している。「今はまだコロナ禍で海外に行くのが難しいだが、これから会社も軌道に乗ったら、海外行って当地の自然や習慣が含まれる園芸の写真集を出したい」という。植物の魅力だけではなく、ローカルの文化も知ることができる植物写真を撮るのが彼の目標だ。しかし、これはあくまでも会社としての夢であり、龐さん自身は、「安定した生活が嫌いなので、これからやりたいことを特に決めずにただ過程を経験したい」と語った。物理から写真へ、そして写真から今植物に至った。龐さんは植物に止まらずに、これからも挑戦を続けていく。

 

※この記事は2022年春学期「ニューズライティング入門」(朝日新聞提携講座)」(岡田力講師)において作成しました。

 

龐癒(ホウ・ユウ)さん(1996年2月6日生まれ)

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