孤独死に取り組むNPO法人1

弟の死がきっかけ、「最後は地域に役立つことを」 孤独死に取り組むNPO法人エンリッチ代表、紺野功さんに聞く

 今年5月、東京都に住む70代男性が孤独死、新型コロナに感染していたことが発覚した。コロナ禍で民生委員による見回り活動は停止し、孤独死の現場は深刻化している。そんな中、孤独死課題に取り組むNPO法人エンリッチ代表の紺野功さん(60)に話を聞いた。紺野さんは「高齢者向けの見守りサービスはあるけど、現役世代の見守りって、ないんです」と指摘した。

(トップ写真:紺野功さん=紺野さん提供)

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 紺野さんは2018年にNPO法人エンリッチを設立、SNSアプリLINEを用いた見守りサービスを展開している。利用方法は簡単だ。無料で登録し、毎日、2日に1回、3日に1回の中から、希望の安否確認の頻度を選び、その間隔で送られてくるLINEの安否確認にOKをタッチし返信するだけ。24時間後と更に3時間後の再確認にも返信がない場合、スタッフが電話をかけるという仕組みだ。毎回の安否確認のメッセージには、歴史上の偉人の格言等が添えられ、利用者が気分転換できるよう工夫されている。コロナの不安の中、利用者は増加しているという。

エンリッチのLINE見守りサービス安否確認画面。

 NPO設立のきっかけは、「今から5年前、弟が孤独死したこと」だという。弟の由夫さん(享年51)は当時、自営業のシステムエンジニアだった。2015年の正月、親子で実家に集まった。酒好きの弟は、母の実家・山形の酒を毎年楽しみにしていた。ただ、その時会った弟は、とても痩せていた。心配し、酒をやめるよう諭す母と、反発した弟とで「酒を渡す、渡さない」で口論に。結局、弟は母親に罵声を浴びせ、ドアをバタンと締めて帰ってしまった。これが、最後に見た弟の姿となる。

 「母親にとっては、それがずっと心に刺のように刺さっていた」と紺野さん。2月になり、弟に連絡するよう母親から懇願された。「今思うと、虫の知らせですね」。電話に出た弟は、酔っ払っていた。「元気か?」との問いかけに、「元気だ」。兄は「おふくろに、たまには電話してあげて」とだけ言って電話を切った。

 弟が亡くなったのは、その電話から三日後。発見されたのは、更にその一週間後だった。発見したのは、家族でも友人でもない。仕事を発注するクライアントが、連絡が付かない弟を訪問し発見、警察に連絡したのだった。弟の死後、紺野さんはふと気づいた。「弟は女性と付き合ったことがあるのか、知らない」と。「人に好かれたり、感謝したり、そういう人生だったか」と。

 弟の死因は低体温症だった。「山で遭難した人がなる症状くらいに思っていた」。それが「まさか弟が自宅で……」。弟の部屋に暖房器具はなかった。亡くなる直前のことを想像した。「意識がなくなってから死ぬまでの間、時間がきっとあったんだろうな」。「翌日気がついていたら、助かっていたかも」。悔やんでも悔やみきれない。

 弟の死後、孤独死について調べた。「多いですよ。年間3万人も」と紺野さん。孤独死数の正確な実態把握は難しいが、孤独死者の死亡時年齢に関する最近の調査では、50代までが全体の約4割を占め、現役世代の孤独死が珍しくないことがわかってきた(一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員会「第三回孤独死レポート」2018)。

 弟の死の後、人生を振り返り、最後に「地域の役に立つ仕事をしたい」と思うようになった。紺野さんは電気工、訪問販売、英会話教室、ネット回線販売、ゲーム開発と、様々な仕事を渡り歩いてきた。「残りの人生、社会の役に立つことを一度は一生懸命やったという、自分に対する納得が欲しかった」と率直な気持ちを語る。NPO事業が採算に乗るかどうかは未知だった。それでも「一年間は無給でもいいからやろうと思った」という。

 紺野さんは、「孤独死を防ぐことは容易ではない」とも。しかし、「体液が出て、どろどろになるまで放置されるような、そんな亡くなり方は、不幸じゃないですか」。孤独死を身近に体験した人ならではの、死者の尊厳に寄り添う言葉だ。「そういう悲しい発見を少しでも減らしたい」。そして、「遺族、関係者の不幸を少しでも減らしたい」と意気込みを見せた。

 

※この記事は2020年春学期「ニューズライティング入門」(朝日新聞提携講座)」(岡田力講師)において作成しました。

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