0902_post-65_1

インタビュー 劇団四季俳優・雲田隆弘さん

 劇団四季の初舞台にたって10年。雲田隆弘さんは、今でも初めてミュージカル「キャッツ」を見た日の気持ちを忘れない、という。 「あの曲が流れ、ネコが躍るのを観ると、たまらないんです」。そんな彼の心をつかんで離さないものは何なのか。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - インタビュー 劇団四季俳優・雲田隆弘さん
Share on Facebook
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip

 

 

 

歌い踊り、伝えたいのは「生きる活力」

  雲田さんが役者になりたいと思ったのは、広島にいた高校生の頃。「予備校ブギ」という早稲田大学を目指す青春ドラマを見たときだ。役者になろう。早稲田大学に行こう。そんな思いを胸に受験した。二浪して頑張って政治経済学部に入ったものの、あこがれていたのは大学ではなく役者だと気づいた。大学に籍を置きながら文学座の養成機関に通う日々を過ごした。そしてそんなある日、劇団四季の「キャッツ」に出会う。

「衝撃でした。セリフに加えて歌と踊り。共感というか、共鳴というか、まさに感動でした」。

 本格的なミュージカルを見たのは初めて。すぐに心は決まった。劇団四季の俳優になろうと決意し、受験。大学を卒業すると同時に研究生として入所した。

 

観客に伝えたい思い  

 そして今、ロングラン・ミュージカル「ライオンキング」で、王様の執事ザズーを8年間演じている。どんなところに苦労があるのだろうか。

「役者の仕事は見えているものがすべてです。自分がどれだけ一生懸命やったなんてこと、全然関係ないんです。自分の思いが観客に伝わっていないと感じる時が、やっぱりつらいです」

 インタビューに備えて「ライオンキング」の舞台を見た時のことを思い出した。同じ列に座っていた女の子が突然泣き始めたのだ。隣のお母さんも彼女の肩に手をやり、ハンカチを握りしめている。その親子は観客としてフロアにいながら、舞台と一緒になって泣いていた。そして間もなく、劇場全体が大きな拍手に包まれた。

 

ミュージカルの魅力

 「観客のみなさんと気持ちが一致した時、それが一番うれしいです。本番でお客様に拍手をして頂いた時がたまらないんです」

 そう語る、雲田さんの笑顔はすばらしい。

 舞台で見るより小柄な印象の雲田さんだが、声の大きさは舞台そのままだ。言葉がそのまま体にぶつかってくる。

「ミュージカルの魅力は、生身の人間が体を動かし、大きな声を出し、エネルギーを発散することです。そして作品が、強いメッセージを持っていることだと思います」

 では、作品の持つメッセージとは何だろう。

「舞台を見た方からお手紙を頂くことがあります。『頑張って明日からも生きていく』と書いてあると、本当にうれしいです。私もまた頑張ろうと思います。『人生は生きるに値する』というメッセージをお客様に感じていただけることこそが、劇団四季のミュージカルの魅力だと思います」

 カーテンコールの幕が降りた後も、雲田さんがステップを踏む足が、カーテンの裾を揺らしている。いつか「キャッツ」の舞台に立つ日まで、いや、それからもずっと、ミュージカルは雲田さんの心を離さないだろう。

 

インタビューを終えて

 「将来、やりたい役」と聞かれたら、「恥ずかしくて言えない」と答えるほどシャイな雲田さん。舞台の上では別人だ。雲田さんは今日も、歌い、踊り、「生きるに活力」を観客に届ける。そしてその思いは、観客の胸で燃え続けているに違いない。

 

【取材・執筆 尾白登紀子】

 

 

●取材協力・写真提供:劇団四季

※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームE」において、刀祢館正明先生の指導のもとに作成しました。

 

「劇団四季が私の人生です」

0901-Kumoda2.jpg

 

 多くの親子を魅了しながら、自身の家族にも幸せを与える。

 劇団四季のミュージカル「ライオンキング」で7年間同じ役を演じ続ける雲田隆弘さんの役者人生は、家族の支えなしには実現しなかったという。

 家族のこと、今後挑戦したいことについて尋ねた。

 

 

Q: 劇団に入りたい役者になりたいと希望しても、家族から反対される、という話を聞きます。雲田さんの場合はどうでしたか。

 

「僕も自分の子供を持つようになって、両親がよく反対しなかったなと思うんです。両親に、役者になりたいと言ったら驚いたのですが、『何言ってるんだ。バカじゃないの、そんなこと』などは一つも言わなかった。ずっと見守って応援してくれて、本当に有り難いなと思っています」

 

雲田さんのお子さんが「役者になりたい」と言ったら?

 

「そうですよね・・・。ぼくだったら反対すると思います。子供たちは0歳の時からミュージカルに連れて行っていたので、舞台が大好きなんです。もし彼らがライオンキングに出たいと言ったらどうしようと思い、この間たずねてみました。すると「舞台には出たくない。恥ずかしいから」と言っていました。嬉しいような悲しいような、ちょっと寂しい気がしました」

 

Q: ご家族は雲田さんの演技に対してどんな感想を持っていますか。

 

「最初は両親の方が緊張していたみたいです。今は、新しい役や演目になると、(故郷の広島から)観に来てくれます。ずっと演じているライオンキングも、上京することがあれば来てくれますね。妻は劇団四季にいたこともありますし、僕が入団する前にもいろいろ見ていたので、ハラハラしていたとは思いますが、演技に対する免疫はあったようです。子供たちは『あ、パパだ。パパだ』と喜んでくれます」

 

Q: 劇団四季ではどのような役者を目指しているのでしょう。

 

「年を重ねていっても、大好きな歌も踊りも出来るような役者です」

 

今後、劇団四季以外で挑戦したいことは。

 

「正直に言って、僕は劇団四季を辞めたら食べていけないと思っています。辞めたところで、他の興行会社が僕を拾ってくれるとか、そういうことはありえないですし。劇団四季だから今の自分があると思っています。ミュージカルは大好きですし、舞台も大好きですが、劇団四季を辞めることになれば、多分、もう役者をやらないでしょう」

 

インタビューを終えて

 俳優にはやはり独特のオーラがあるんだなと思った。ミュージカルで演技しているときと同じように、私たちのインタビューにも真剣に答えてくれた。家族のことは嬉しそうに、自分のことは謙虚に。語りには、彼の人柄の良さが伝わってきたように思う。

【取材・執筆:前岡愛 記事中写真:岡田圭司】

 

 

●取材協力・写真提供:劇団四季

 

※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームE」において、刀祢館正明先生の指導のもとに作成しました。

 

我が人生は四季なり

 「おばあちゃんと、どうしても一度劇団四季のライオンキングが見たかったの」。
 年取った女性の手を引いて歩いていた孫は、私の問いにうれしそうに話した。

 役者の名前を売りにしない劇団四季に、観客は舞台を求めてやってくる。あえてその舞台を選んだ俳優は何を考え、そこにどんな居場所を見出したのか。
 「ライオンキング」の舞台に立って8年の雲田隆弘さんを通して、劇団四季が観客のみならず俳優をも魅了する秘密を探る。

 

0901-Kumoda1-1.jpg

 言葉は直球だった。「劇団四季を辞める事になったら、多分もう役者をやらないと思います」。この劇団には、いわゆるスター役者は存在しない。名を上げることが自身の成長に繋がると一般に思われる世界にあって、彼は「有名になることに興味はないんです」と言う。豪快に笑いながら、身振り手振りを交え、体全体を使って話す姿からは想像もできないほど、謙虚な人だった。しかし、劇団に対する想いは熱い。「劇団四季を辞めたところでどこか興行会社の方が拾ってくれるとしても、僕にとってはありえないですし。正直、劇団四季だからやれていると思っています」

 

 劇団四季との出会いは早稲田大学に在学中のことだった。初めて見たミュージカルが「キャッツ」。一瞬でミュージカルの虜になった。「衝撃でした。それまでいわゆる普通の舞台にしか興味はなかったのですが、ダイナミックな音楽に踊りや歌を乗せてゆく。ミュージカルの表現方法が単なる台詞のやりとりを越えたものだと思ったんですね」

 

 その日をきっかけに劇団四季に入団することを決意。大学卒業後に入団を果たした。とはいえ、舞台に立つのは容易なことではなかった。「劇団四季には舞台のメッセージを確実にお客様に伝えるため、台詞を落とさないように独特の発声方法があります。団員はそれができて初めて舞台に立つことができる。さらに、発声だけできてもそれは演技ではないんです」

 

「我々の仕事は一生懸命やれば結果が出るものじゃない。見ていらっしゃるお客様が良いか悪いか判断する。そういう意味では自分が伝えたいことと伝わっていることの間にギャップがある場合は辛いですね」

 それを乗り越えるのもまた、役者の仕事だ。現在出演している「ライオンキング」の苦労を尋ねた。「私がメインの歌の部分で、どんどん早口で歌いまくし立てる部分があるんですが、きちんと発声するのが大変なんです。それが出来たらいいねって先輩と話してて、これだ!って思えた瞬間。興奮しました」。表現の限界に挑戦するせめぎ合いが舞台を作る。すべては舞台を感じる場にするため。

 

「劇団四季の舞台には、『人生は生きるに値する』という浅利慶太のメッセージが込められています。それを我々が体いっぱい使って、言葉も一音足りとも落とさないような集中力で表現する。なおかつそれに踊りや歌を乗せてお客様に感じていただく。それが四季の舞台の魅力だと思います」

 

 

インタビューを終えて

 役者でありながらファン。雲田さんの言葉の端々からは劇団四季への想いがあふれていた。劇団四季あっての役者雲田を強く感じ、「四季を辞めたら役者をやらない」と言った彼の言葉はそのまま真実なのだと感じた。

 

(了)

【取材・執筆:勝又千重子】

●取材協力・写真提供:劇団四季

 

※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームE」において、刀祢館正明先生の指導のもとに作成しました。

合わせて読みたい

  1. 果てなきアスベスト問題(1)