2010年10月25日
執筆:寺嶋美香 丸山紀一朗 須賀裕一 村井七緒子
男と女の関係はどのように変化してきたのか―牛窪さんインタビュー
「男と女の関係はどのように変化してきたのか」をテーマに、マーケティングライターの牛窪恵さんをニューズルームEの講義にお呼びし、履修者全員でインタビューを行った。
2010年10月25日
執筆:寺嶋美香 丸山紀一朗 須賀裕一 村井七緒子
「男と女の関係はどのように変化してきたのか」をテーマに、マーケティングライターの牛窪恵さんをニューズルームEの講義にお呼びし、履修者全員でインタビューを行った。
「マスオさん」「アッシー・メッシー・ミツグ君」「フェミ男」、そして2009年新語・流行語大賞のトップテンには「草食男子」がノミネートされた。男性はやさしく草食化し、反対に女性はたくましくなってきた。その中で、男と女の関係はどのように変化してきたのか。スタッフとともに大勢の若者を取材し、著書を送り続けているマーケティングライターの牛窪恵さんに聞いた。
――牛窪さんは著書で、20代30代が恋愛に関心を持たなくなっていると書いています。その理由は何でしょう
「一番の理由は、経済との関係だと思います。バブル時代の若い人たちは恋愛にも仕事にも意欲を持ち、将来に何かいいことがあるのではないかという気持ちを持つことができていました。今の20代30代はバブル崩壊後の、経済が右肩下がりの時代をずっと過ごしています。その結果、恋愛にも意欲が無くなってきてしまったと考えられます」
――それでも恋愛をしている人たちはいます。彼らとバブル時代に恋愛をしていた若者に共通する変わらないものはありますか。
「安心感を求めるということは変わっていません。でも、安心感の意味が違います。バブル時代は周りがみんな恋愛しているから、自分に恋人がいないと不安だった。自分にも恋人がいるということで安心していました。今は、恋人がいないことの不安よりも仕事や友人関係の不安のほうが強くなっています。そのために、自分を裏切らないものである恋人とつながっていることで安心感を得ようとしているのです」
――変わったものは何でしょう。
「男女の意識が薄くなったことですね。これは、恋人間だけではなく夫婦間にも出てきています。男だから・女だからということではなく、お互いの得意分野を補完し合っている感じです。良い面と悪い面があります。例えば、男性が一家の大黒柱だという意識が(男女ともに)低くなってきていることです。奥さんが仕事のできる人だったら旦那さんはそんなに仕事を頑張らなくてもいいやと思ってしまう。甘えみたいなものが生まれてしまいます」
――原因としてはどんなことを考えていますか。
「自分の領域を侵されたくないという縄張り意識が強くなったことが挙げられます。彼らは子供の頃から独り部屋に慣れてきたため、一人の時間を大切にしたいという意識があるのでしょう。また、バブル時代やそれ以前の多くの女性は、結婚したら基本的に寿退社という形で専業主婦になっていました。ある程度は男性に従わなければならなかったのです。しかし、今は共働きも多いので女性の意識も変わったのではないでしょうか」
――今後、若い世代の男女の関係は。
「男女の差はさらになくなっていくと思います。ただ、今の10代はちょうどバブル世代の子供たちです。親にならって男の子がデートを仕切りたがる世代になるかもしれません」
――今の20代30代が恋愛に関心を持つためにはどうすれば良いと思いますか。
「恋愛は結局個人の自由なので、本人たちの判断に任せれば良いと思います。若者が恋愛や結婚に関心を持つために彼らに対してではなく、政治家に対して言いたいことがあります。将来に不安を抱えたままでは、意欲を持って恋愛したり働いたりすることが出来ません。彼らが将来に希望を持てるように不況・年金問題を解決して欲しいと思います」
執筆:寺嶋美香
取材を終えて
著書やブログからイメージしていた雰囲気はハイテンションな人だった。実際は、落ち着いていて頭の回転が早いなとインタビューの様々な所から感じた。インタビュー中に見せる笑顔はクラスにいた私たちを一緒に笑顔にさせてしまう程魅力的だった。
女子会。この言葉、多くの人が一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、女子会とは一体何なのか。たんなる「女性たちの食事会」なのだろうか。女子会が登場した背景には何があり、実際に何が語られているのか。企業のマーケティングを手がけており、若い女性の価値観に詳しいマーケッター・牛窪恵さんに聞いた。
1968年生まれの牛窪さんは現在40代。白いジャケット姿でときおり黒髪をかき上げながら話す彼女からは、清潔感とともに色気さえ感じられる。
著書に『「エコ恋愛」婚の時代』(2009年)や『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(2008年)などがあり、若い世代への関心が高い。牛窪さんが、女性誌などで「女子会」という言葉をよく目にするようになったのは2年ほど前からだという。なぜマスコミはこの言葉を用いるようになったのか。
「食事の際に、男性といるときに選ぶ店と、女性だけのときに選ぶ店とは、やはり違うわけですよ。しかも今、女性だけで集まる機会の方が多い。ビジネスの観点からすると、女子というくくりにした方が引きがいいと考えて使っていると思います」
一般に「女子会」とは、女性同士での食事会やお酒を飲む集まりのことをいう。では、そこでは一体何が語られているのか。私の女友達によると、「恋バナ」(=恋愛に関する話題)で盛り上がることが多いという。しかし、牛窪さんは次のように話す。
「たしかに恋バナはするし、盛り上がりもします。ですが、恋愛についてはどこか冷めている。たとえばあるイケメンについて、彼がどういう男性なのかという話は盛んにするものの、それを『ネタ』にしているようなところがある。では、その人に対して主体的に行動したり、より深く知ろうとするかというと、そうではないのです」
ここには、若い女性の恋愛観の変化が関係しているのではないだろうか。牛窪さんは2006年の夏ごろから20代に対するインタビュー調査を行う中で、その変化に気付いたという。
「私たちのころと比べて、恋愛に関心が無いようだと感じました。男性については『草食系』としてまとめましたが、女性も同様に、恋愛に対してあまり積極的ではない、と」
このような女性の恋愛観の変化の理由を、次のように説明する。
「経済状況と深く関係していると思います。バブル崩壊以降の若者世代は、ずっと右肩下がりの時代を生きてきた。経済が好調なときはいろいろなことに意欲的で、仕事についても何かこの先いいことが待っているのでは、という気持ちになります。恋愛についても、やはりそういうことが言えるのではないでしょうか」
著書『「エコ恋愛」婚の時代』の中で触れているように、牛窪さんは「恋愛でドキドキするのは疲れる」「燃え上がるような恋愛は、あとあと面倒が起こりそう」などと口にする若い女性たちが多いことを確認している。このような文脈でとらえると、彼女の言う「女子会での、どこか冷めた恋バナ」というのは理解できる。
では、もしかすると恋バナは女子会のメインではないのかもしれない。実際に女子会に参加するという牛窪さんの分析は。
「一番特徴的なのは、習い事や仕事に関する話が多いということです。それも愚痴や自慢ではなく、それを楽しんでいる。もう少し上の世代の女性ですと、仕事の話をするとそこで競争意識が出てしまうので、あまりしたがらないですね。今の若い女性は、仕事に対する競争意識もあまり無いので、『自分の会社では〇〇だよ』ということをフラットに言い合っている印象。そこがみなさんすごく等身大だなと思います」
執筆:丸山紀一朗
取材を終えて
恋愛のことをネタにする一方で、自身の将来や仕事について熱心に話す若い女性たち。「女子会」には、私たち若い世代の価値観がそのまま投影されていると言えるかもしれない。私のような男子には、置き去りにされているようでどこか面白くない、という気もするけれど。
恋愛、婚活に続いて夫婦についても取材している牛窪恵さん。「昔に比べて夫婦の間で男女意識が薄くなったと身をもって感じている」という。
男性でも育児や家事を手伝う人が増えていますし、女性も子供とのスポーツ交流などを男性に任せきりということはありません。男女が互いに得意分野を補完し合うために、役割分担の意識が薄くなったのだと思います。
でも、男女意識があいまいなために弊害もいくつか出ているようです。例えば男性は、一家の大黒柱という意識が以前より薄くなったので、「仕事に精を出して妻子を養ってやろう」という気概が弱いように感じます。共働きを希望する男性が増えている背景はここにあるのでしょう。
逆もまた然りです。女性は以前ほど家事を積極的にこなす必要性を感じていないように思います。例えば料理です。最近「弁当男子」などという言葉もありますが、それに便乗して「男性が料理をしてくれるのであれば、頼ってしまえばいい」という甘えもあるのではないでしょうか。
男女の性差の役割分担は薄くなっていますが、縄張り意識は今でも根強く残っているようです。今、「俺領域」とか「妻ワールド」などと言いますが、互いに領域を侵されまいと少しのスペースでも分けたがるのは、昔から変わらない夫婦間の特徴と言えます。
ただ、女性が考える縄張りの範囲が以前に比べて拡がっている点は注目すべきでしょう。バブル期の女性は結婚したらある程度男性に従わざるをえなかった。当時女性は結婚したら寿退社という形で専業主婦になる人が5割以上を占めていました。現在ではそのような女性は3割といいます。ワーク・ライフ・バランスの推進など、社会の変化に伴い仕事と私生活の共存が以前よりしやすくなったためと考えられます。結婚しても仕事を続けやすくなったので、以前ほど男性に依存しないようになった。その結果、女性も自分の縄張りを主張することができるようになったのだと思います。
このところ夫婦別姓の議論が活発になっているのも、この縄張り意識の変化によるところが大きいのではないでしょうか。「自分という人間を結婚しても忘れたくない」という想いが、夫婦別姓を希望することに結びついているのだと思います。
私は夫婦別姓には条件付きで賛成です。ただし、まず女性の社会保障についてきっちりと議論する必要があります。次に子供の姓についてです。調和が大切な家族の中で無用な対立が生まれないように、お子さんが産まれた時にどういう形で姓を選択するのかはしかっかり話し合って決めるべきです。
もちろん話し合う過程では対立することもあるでしょう。ただ、私は深いコミュニケーションというのはある意味でケンカすることだと思っています。互いの概念が衝突した時こそ、きちんと顔を見合わせて話すことが大切です。
今の若い夫婦はコミュニケーションの多くをバーチャルな世界に頼りすぎているように感じます。こう言うと旧い世代と思われるかもしれませんが、深いコミュニケーションはやはり対面でしかできないものです。バーチャルなものは誤解を生みやすいので、最終的には直接話し合うことが大切ですね。
執筆:須賀裕一
取材を終えて
牛窪さんは自身のブログや著書からはおよそ想像がつかないほどおしとやかな女性でした。「気分はバブリ~」というブログタイトルや、著書内のセックスについて深く突っ込んだ内容からは、バブル期のような“イケイケ”の女性像を思い浮かべていましたが、いい意味で裏切られたように感じます。ただ、健全な夫婦関係にはケンカも必要とする考え方からは、牛窪さんの内に秘められた“芯の強さ”を垣間見ることができたような気がします。
恋愛リスクを回避したい20代女性は、「大変そう」な不倫への憧れが極めて弱い。見栄を張らない20代男性は、デートで行くホテル代も彼女とワリカンする――。「草食系男子」や「婚活」などに関する著書があるマーケティングライターの牛窪恵さんは、20代30代の男女の恋愛観や結婚観を分析し、軽快にその特徴を言い当てている。ふだんは他人の価値観を分析している牛窪さんに、自身の生い立ちや価値観を聞いた。
仕事をする上で、牛窪さんの根底にあるものは何か。
「誰もが幸せで前向きで楽しく生きられる社会にしたいなっていう思いが、ものすごく強いです」
インタビューの途中、少し照れくさそうに答えた。「陳腐な言葉ですが」と一言はさみながら。落ち着いて控えめに話す様子は、著書やブログの文面から伝わってくる底抜けの明るさとポジティブさからは想像ができない。しかし、そのポジティブさは意識してそうしている部分もあるという。
「グチを聞かされても嬉しくないし、私自身が世の中をよくしたいと思っているのに、そんなことを言う必要もないので」
根底にある思いは、彼女の行動の中で貫かれている。
世の中をよくすることとして、第一に考えてきたのは、女性の自立を応援することだった。そこには、母親の姿が影響した。母は、早稲田大学を出てリクルートに就職した。しかし、父に仕事を辞めさせられ、家に縛り付けられて、ずっと仕事ができなかった。
「それを見ていて、女性が働くというのは自分だけの意思ではできなくて、夫や社会の協力が大事だと感じていました。今それを私がサポートできるものならば、世の中を少しでもそういう方向に変えて行きたいという思いが強いです」
自身の経験も、今の価値観に大きく影響している。今から10年以上前、3年間勤めた会社の上司が、突然ストーカーに豹変し、あまりの恐怖に怯える日々が続いた。仕事はおろか、外出すらできなくなり、体重が13キロ落ちた。のち、フリーランスになったとき、ストーカーに関する取材をする中で、岩下久美子さんと出会う。ストーカーについての著書をもつ岩下さんは、女性がストーカー被害に遭う背景に、女性が自立できていない事実があると言った。彼女と意気投合したことがきっかけとなり、最初の著書「男が知らない『おひとりさま』マーケット」を書いた。
「岩下さんに対して一番尊敬しているのは、自分のことを最後まで言わなかったことですね。取材では自分のことを話した方が相手の気持ちに入っていきやすいのですが、岩下さんは絶対にそれをしなかった。その方が難しいんです。でも、それは彼女のプライドでした。それだけのプライドをもって記者をやっていたことを尊敬しています」
最初の著書で30代独身女性を取材して以来、20代30代の男女へと関心が広がった。
「私のポーラスター(ここだけは譲れないというもの)は、好奇心」
新しいものに興味を持って、そこを切り開いていくことにやりがいを感じているという。
しかし、牛窪さんを支える本当の存在は、仕事でも好奇心でもない。夫の存在だ。ストーカーの恐怖に怯え、仕事がしたくても出来なくなってしまったとき、夫は仕事を辞める覚悟でそれまで住んでいた大阪から彼女のいる東京に転居してきた。そのときに彼の言った言葉が、今の牛窪さんを突き動かす原動力になっているという。
「僕が君の才能を一生かけて証明する」
この言葉があるから、どんなに辛くても仕事は辞められない。
執筆:村井七緒子
取材を終えて※この記事は、2010年度J-Schoolの授業「ニューズルームE」において作成しました。
「最近、一番充実しているときは?」と尋ねたら、「夫と一緒にいるとき」という答えが返ってきた。一緒にいれば何をしていても楽しいのだそう。著書で「結婚は将来の経済的リスク緩和のため」と言いながらも、最後は「でも気持ちが大事」とまとめていた理由が見えた。私も、結婚なんてまだまだ……と思う20代女性の一人だったが、幸せそうな牛窪さんの姿に、結婚意欲がぐんと高まった。