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服で世の中をハッピーに

ファッションジャーナリストという仕事には、あまり馴染みが無い人も多いかもしれない。どこに足を運び、何を取材するのか。その仕事の魅力と、ファッション業界における最新の話題を、ファッションジャーナリスト・藤岡篤子さんに聞いた。

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 20年以上のファッションジャーナリストとしてキャリアをもつ藤岡篤子さんは、ミラノ・パリ・ニューヨーク・ロンドンで行われる4大コレクション全てに足を運び、取材した結果をファッション雑誌でのコラムやセミナーで披露している。「ワンピースが好き」という藤岡さんは、取材当日も黒いノースリーブのワンピースに、かすかな香水を身にまとって颯爽と教室に入ってきた。

 

会社員時代の人脈が生きた独立当初

―今でこそ、フリーランスとして海外を飛び回っているが、「20代でのOL経験があるからこそ今がある」という。

  大学卒業後、国際羊毛事務局 でファッションコーディネーターとして働いていました。当時から、ジャパンウールコレクションを企画したり、業界紙に記事を書いたり、講演していました。6年間働きましたが、一生懸命頑張りすぎている気がして、疲れてしまい、会社をやめました。

写真:藤岡篤子氏提供

  その後は、会社員時代の繋がりで、原稿を頼まれるなどの話があり、23年前に自分の事務所を立ち上げました。ひとつの仕事が他の仕事をどんどん呼んでくるようになり、今はファッション雑誌『GINGER』『25ans』などの連載や、新聞から辞書に至るまで、様々な記事を書いています。

  ファッションジャーナリストとして食べていこうという強い志を持っていたわけではなく、転がる石のように今に至っています。

 

転機は「コレクショントレンドセミナー」

―ジャーナリストとして転機になった仕事が、コレクショントレンドセミナーだ。東京、大阪、名古屋で、自ら取材した海外コレクションの様子や注目ブランド、アイテム等を映像や写真をスクリーンに映しながら、約3時間にわたり、一人で紹介している。いまや、2千人規模の観客を集めるという人気だ。 

  トレンドセミナーでは、一度に1,200人もの方が、1万3千円という金額を払って来てくださる。これが成功しているのは、私の情報に対する信頼感や影響力があるからなのだと思います。このセミナーが私の年俸を支えるようになった頃から、一人のジャーナリストとして認められたという思いになりました。私の情報にそれだけの対価があり、人が集まるということに、自分の中で何かピンときました。

  ファッションジャーナリストというのは、肩書きを名乗れば誰でも名刺は持てるわけですが、周りから仕事がくるということが、(プロフェッショナルな)職業として確立されているということだと思っています。

 

大忙しのコレクション取材

―4大コレクションでは、のべ200本を下らない数のショーを見ることになる。

  現地まで12~13時間かけて取材に向かうのだから、行ったからには全部見ようというスタンスをとっています。

  ミラノを例に挙げると、朝9時からショーが始まり、夜の10時過ぎまで、ずっとショーの予定が入っています。ショーは一日12本くらいありますが、他にも展示会が一日8本はあるので、休む間もなく、お昼も食べられない日が4日間続くこともあります。でも、必ずご飯会というのが夜11時頃にあるので、最後にそこに寄ってから、ホテルへ帰るというのがコレクション中の一般的な流れです。

  服装は、黒衣のような、黒やグレーのモノトーンで動きやすい格好。人が殺到して道を通れない時は、椅子の上を飛び越えて移動することもあります。よく「走っている姿を見た」なんていう目撃談を寄せられます。

 

業界人に「ひらめき」を与えたい

―トレンドセミナーで紹介するものは約80ブランド。コレクションで取材した全てのショーを紹介することはできない。

  コレクションでショーを開く人の全員が素晴らしいわけではありません。でも、それらを貶すくらいであれば、見せない方がいいです。

  ですから、セミナーでは、ある程度の足切りをして、良いブランドを厳選して紹介しています。私のセミナーに来る方は多くがファッション業界の方ですから、そういう方たちをインスパイア(ひらめきを与えたい)したいと思います。

 

年齢に合わせたファッションを

―2009年の流行語に「ファストファッション」が選ばれたほど、不景気の影響でファッション情勢も、老舗ブランドの立ち位置も変わってきた。

  若いうちは、旬のおしゃれが安く手に入るなら、どんどんトライすればいい。ただ、私自身は「40歳になったら絶対シャネルを買いたい」と思っていました。

  いつまでもH&M(スウェーデンのヘネス&モーリッツ)だけでいい、とはいかなくなるんです。年齢と共に体型や肌が変わると、安っぽく見えてしまいます。

  (シャネルなどの)ラグジュアリー(高級)ブランドには、素材や構成、耐久性など高いだけの理由があります。たくさんの人がファッションを安く楽しめるのもいいことですが、年齢に合わせて、ぜひ本物を着て欲しいです。

 

ファストファッションの弊害

―スウェーデンのへネス・アンド・モーリッツ(H&M)や米フォーエバー21などファストファッションと呼ばれる低価系の専門店が世界的に流行している。ファストファッションは、商品を買い換える頻度が高くなりがちで、ロハスやエコロジーの流れに逆行しているという危惧がある。

  ファストファッションの弊害ですね。私もすごく気になっています。たとえば、(シャネルやエルメスなどの)ラグジュアリー(高級)ブランドは、おばあさんのケリーバッグを孫娘が使う、といったように、商品自体は高価だけど、基本的にはエコに反していないものが多いんです。

  ところが、ファストファッションの場合は、品質の面や、流行ジャストの服をうまく作ってあるので、来年はもう着られず使い捨て、というケースが多いです。

  ただ、ファストファッションの企業の中にも、たとえばH&Mのように、ものすごくエコに対してはっきりした姿勢を打ち出しているところもあります。同社は、アメリカのコットンの畑をオーガニックにして、その素材を使ったラインもあるんですよ。

  会社の体制としても、工場の排水を浄化してから外に出すとか、流通過程でのトラックの二酸化炭素(CO2)規制をクリアするといったように、エコロジカルな思想と行動をおおきなテーマとしていて、同社の広報はリリースしています。

―エコの意識は、企業だけでなく、ファストファッションを好む消費者にとっても大切だ。 

  シャネルで50万円もするジャケットの似たものが、ファストブランドで5千円であれば、たくさんの人がファッションを楽しむことができるので、悪いことではありません。しかし、ファストファッションの商品を手にして、高級ブランドと同じものを持っているという考え方は、素材や物作りの観点からすると間違いです。

  ルイヴィトンバーバリーといったラグジュアリーブランドの多くは、自分のところとそっくりなもの、知的所有権を侵害するようなものを取り締まる社内の専門チームを作っています。

 

売れ続けるブランドの条件

―伊ヴェルサーチが日本からの撤退を決めるなど、高級ブランドは経営悪化が伝えられる。

  一握りの選ばれた女性にしか似合わない洋服では、マーケットが非常に小さいです。ですから、比較的安価なセカンドやサードラインの商品作りを進めるブランドも多く、象徴となる服と、売れるラインの服とを分けているところが、ラグジュアリーブランドでも成功しています。

  頂点に立つブランドは、象徴としてすごく特徴のある服を打ち出せばいいんです。実際売るのはセカンド、サードブランドでいいわけなんです。

―栄枯盛衰が激しいファッション業界で、「売れ続けるブランド」への条件はあるのだろうか。

  デザイナーって、人間関係が重要である場合がすごく多いんです。クリエイティブ面では疑問符がつく人でも、ずっと安泰なブランドがある一方で、すごく才能がある人でも協調性がなかったり、オーナーと軋轢があったりすると、いくらすばらしいコレクションを発表しても、2シーズンしかもたないこともあります。

 

日本のファッションに集まる海外の視線

―世界のコレクションを見てきたうえで、日本のファッションの世界における位置付けは高いのか、低いのか。

  日本のファッションは、アニメーションに代表されるように、いま海外のクリエーターの間では、すごく関心が高まっています。某有名ブランドのデザイナーなんか、来日して最初出向くのが、渋谷109とか原宿のキディランド、裏原などのサンプリングなんでよ。

  2009年の春夏コレクションでも、日本のストリート発といったデザインがトレンドでした。フランスでもイタリアでも、だいたい学生はジーンズにトレーナーとか、セーターによくてスカーフを巻いている程度ですが、日本の学生の場合は、特に男の子がおしゃれ。「僕はこれが好き」「ここにこだわっています」といった姿勢を見せて堂々としている若い子がいるのは日本ぐらいです。

 

服を通じて伝えたいハッピーな気持ち

―一方で、世の中には、ファッションを楽しむ金銭的に余裕のない人もいる。「衣食住」の中では劣後しがちな「衣」を扱うジャーナリストとして伝えたいことは。 

  ファッションの場合、安くても高くても、新しいものとか、すごく欲しかったものとか、気に入ったものに出会って買ったときに、やっぱり私はうれしいんですよ。気持ちがうきうきしてきて、ハッピーになれるんですね。そういう気持ちを、ファッションを通じて皆さんが持ってくれればいいな、と思っています。

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【参考ページ】

藤岡篤子さん公式HP「f-fiori-cafe」 http://www.f-fiori-cafe.com/

※この記事は、09年度J-School講義「ニューズルームA」にて作製しました。

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