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みんなと同じ授業を耳の聞こえない学生に ―気持ちが伝わるノートテイク

大学の教室で、マイク片手に熱弁を振るう教授の話に、学生が耳を傾ける。何の変哲もない光景だが、早稲田大学・早稲田キャンパスのある教室に、両隣の人がペンを走らすノートを目で追って、授業を「聞く」学生の姿があった。両隣の2人は、耳が聞こえない学生のために、教員や学生の話を交替で筆記する「ノートテイカー」だ。

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 耳の代わりとなるノートテイカー

  月曜日の4時限に、政治経済学部のゼミ「経済学演習α」が開かれている。教室の前方で授業を受けるのは、耳の不自由な3年生の栗原剛さん(21)=写真中央。「発表を始めたいと思います……」。授業の冒頭、ゼミ生の1人が壇上に立つと、政治経済学部4年の池島麻加里さん=写真左がノートを取り始めた。ルーズリーフ片面が埋まると、文学研究科2年の嶋田直子さん=写真右=に交替する。栗原さんは、そのペン先を目で追い続ける。

  ノートテイカーの存在は、栗原さんの学校生活を一変させたという。口の動きを見て言葉を読み取る訓練を受けていたが、大学に入るまで、授業を完全には理解できなかった。栗原さんは「ノートテイカーの方々が先生の個人的な体験談や笑い話も伝えてくれるので、とてもうれしい。出来る限り自分の耳の代わりになろうとする姿勢がよくわかる。大学に入って授業が本当に楽しくなりました」と話す。

 

1週間でのべ200人が必要

  以前は、耳の聞こえない学生は、ノート取りを友人らに頼るほかなかった。大学がノートテイカーの養成を始めたのは十数年前のこと。手話サークルに委託した時もあった。

  2006年には、同志社大学を参考に「障がい学生支援室」が設置された。支援内容は目の不自由な学生のための代筆や代読、体の不自由な学生のための移動支援などがあり、ノートテイクもその1つ。現在、各サービスを行うボランティアとして、早大生163名、プロの手話通訳者など29名が登録をしている。

  耳の聞こえない学生は、いま全学に10人いる。支援室はそれぞれと面談をし、ノートテイカーを派遣する。無給のボランティアだと支援を受ける学生が要望を言いにくいだろうからと、ノートテイカーには800円の時給が大学から払われる。1つの授業に2人がつくため、10人の学生が週10コマの授業を取ると、のべ200人が必要になる計算で、支援室はノートテイカーのやりくりに気を遣う。

 

授業の雰囲気や冗談も伝えたい

ノートテイクの一例(障がい学生支援室のパンフレットより)

  文学部2年の宇賀神茜さん(19)は、大学の講義を受けて障がい者支援に興味がわき、ノートテイカーになったという。「早口で講義される先生が多い。自分が普段耳で聞いている時と違って大変」。略語や記号をうまく利用できず、文が長くなって相手が読みにくくなったり、伝えたい内容をすべて書き取れなかったりすることもある。「もっと授業の雰囲気や先生の冗談も付け加えなければ」

  書き方や伝え方については、相手の学生とよく話し合う。耳が聞こえないと、たとえば「イベント」と「弁当」など口の形が似ている言葉が聞き取りづらいことにも気がついた。「ノートテイクの技術を向上させるのはもちろんのこと、相手の立場に立って、きちんと伝えられるノートテイカーになりたい」と、宇賀神さんは話している。 

【関連リンク】
◆早稲田大学障がい学生支援室:
  http://www.waseda.jp/student/shienshitsu/

※この記事は、10年度J-school授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

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