トップ写真:早大生协店长の高祖亜希子さん

早稲田大学生協「焼き立てパン」の舞台裏

早稲田大学生協のオリジナル商品「焼き立てパン」が学生たちに人気だ。22種類あって、昼前になると、売り場は学生たちで賑わう。私も食べてみた。たしかにおいしい。でも、「焼き立て」って本当だろうか。どこで、だれが作っているのだろう。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 早稲田大学生協「焼き立てパン」の舞台裏
Share on Facebook
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip

 

お手頃な値段

 早稲田キャンパスのほぼ中央にある7号館に入ると、生協の「焼き立てパン販売中」の看板が目に入る。地下1階へ向かう矢印に従って、階段を降りる。

 昼過ぎの店内は昼食を買い求める学生たちでいっぱいだ。店の入口付近にある「焼き立てパン」のコーナーでは、彼らがパンを次々とビニール袋に詰め、レジへ持って行く。ショコワッサン、ベーグル、ピロシキパンなどなど。70円から180円と、どれも手ごろな値段だ。

トップ写真:早大生协店长の高祖亜希子さん

 国際教養学部1年の女子学生は「アップルシナモンベーグルとメロンパンの大ファンです。コンビニのパンにはない柔らかさが気に入っています」という。社会学部3年の原田知典さんは価格重視で選ぶ。「ベーグルが好きです。100円なのに歯ごたえがある。1個でもお腹にたまる感じがする」と話す。

 

工場はどこに?

 どこでパンを作っているのだろう。何人かの学生たちに聞いたが、だれも知らなかった。大学から離れたところに工場があるのだろうか。でも、それでは「焼き立て」とは言えないだろう……。 生協店長の高祖亜希子さんにたずねた。すると、「29号館で作っています」という答えが返ってきた。

 え、大学の中で?

 それは、早大キャンパスの脇を走るグランド坂を上りきった左手にあった。

 「工場」を予想していたが、目の前にあるのは「食堂」の看板。高祖さんによると、この29号館は生協が38年前から運営している学生食堂だった。2003年から1階厨房の一角を「パン工場」として使っている。こぢんまりとした4階建ての建物には、色あせた赤い雨樋が下がり、なんとなく「昭和」の雰囲気がただよっている。

 

スタッフの人たち

 午前10時半、許可をもらって中に入った。蒸すような暑さだ。2台の大型オーブンが炎を赤々と燃やし、ガラス窓の向こうでは10人前はありそうなチョリソーピザが2枚、こんがりと焼け始めていた。

カットしたチョリソーピザを纸に包む山下エイさん=29号馆の厨房

 中では7人の女性たちが働いている。その1人、小林雅栄さんは「午前中は時間との競争。目が回る忙しさよ」と話す。額に玉の汗を浮かばせながらオーブンをフル回転させる。午前9時までにベーグルを350個、11時までに総菜パンと菓子パンを370個焼き上げるのだ。小林さんがオーブン扉の取っ手を引くと、ピザが湯気を吹き出した。チーズの香りがこちらまで広がる。

 すぐにカットに入るのは山下エイさんだ。ピザカッターを手に、長方形のピザに大きく十字を入れ、さらに中心から放射線状に割いてゆく。次々と三角形が出来上がっていった。一つずつ紙に包み小林さんに手渡す。息の合った作業でパンケースはみるみるピザで一杯になった。

 厨房の別のエリアでは松原茂子さんがメロンパンの生地を手際良く鉄板に並べていた。大手の山崎製パンから仕入れた生地を冷凍状態で保存し、その日に焼く分だけ解凍する。生地が空気に触れて発酵したら、焼きに入る。冬場はパンがなかなか解凍しないので、早朝から陽だまりを探し回るそうだ。

 

最初は照れました

台车のパンを売り场用のかごに移す小薮洋介さん=14号馆の生协前

 10時50分、厨房に男性の「おはようございます」という元気な声が響いた。現れたのは社会学部3年の小藪洋介さん。登場するや、入口に用意されたパンケースを台車に積み上げていく。

 台車がパンケースで一杯になると、小藪さんは14号館の生協へ向かった。到着すると、納入表を片手にパンを一つ一つ取りだしては売り場用のかごに並べていく。それを店内の「焼き立てパン」コーナーに置くと、ここの納品作業は終了だ。週3回、午後の授業の前にバイトしている。「はじめは友だちに会うとちょっと照れくさかったけれど、いまはすっかり愛着のある仕事になりました」と言う。

 

学生の要望がヒントに

メロンパン生地の形を整えながら鉄板に并べる松原茂子さん=29号馆の厨房

 生協が「焼き立てパン」を始めたのは「生協ライフセンター」のリニューアル・オープンがきっかけだった。店の目玉商品を開発中、学生から寄せられていた「焼き立てのパンを食べたい」という要望がヒントになった。

 「焼き立て」と表示するからには、外から製品を仕入れるわけには行かない。学内で作るための設備をそろえ、大手の山崎製パンから講師を招いて研修を重ね、03年9月、販売を始めた。

  早稲田大学の生協は現在、キャンパスに7店舗あるが、そのうち5店舗で「焼き立てパン」を扱っている。2008年度は1日に平均して約1000個が売れた。大学の長期休暇中をのぞく年間の売上個数は約121万6000個、売上高は1340万円だった。

 

作り手の思い

 高祖さんは「焼き立てパンで学生の健康を支えたい」と言う。最近は朝食抜きで大学に来る学生たちも少なくない。午前9時からベーグルを置くようにしたのはこのためだ。「手ごろな価格のパンを提供することで、学生の健康な食生活を応援したい。学生には、今の『食』が10年後の自分の体を作ることを意識してもらいたいですね」

 作り手の側には、食べることを楽しんでもらいたい、季節感覚をもってほしい、という思いもある。09年の春に果実とクリームが入った「モモパン」を発売し、大変好評だったそうだ。企画や準備は、発売の2か月前から進めているという。

 高祖さんは「今後は学生と協力した商品も開発したい。早稲田に因んだ名前のパンや早稲田をモチーフにしたパンはどうでしょう」と話している。

 

                                         

参考URL:早稲田大学生活共同組合 パンショップ営業時間

※この記事は、09年後期のJ-School講義「ニューズルームE」において作成しました。

合わせて読みたい

  1. シーサイド大西と豊島の三十年
  2. 学生がカフェ経営 「ぐぅ」な試みで地域貢献
  3. エコとアートの結びつき―空き缶アート「よいち座」
  4. 豊島 棚田再生に奮闘中
  5. 瀬戸内国際芸術祭、アートで島は動く