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瀬戸内国際芸術祭、アートで島は動く

瀬戸内海の七つの島を主舞台に「アートと海を巡る百日間の冒険」が始まる。「海の復権」をテーマにした瀬戸内国際芸術祭で、七つの島々ではそれぞれの特色を生かした事業が展開される。産廃問題に苦しんできた豊島は、水滴をイメージした新美術館建設で、アートの島に変身する予定だ。

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 美術館を見守る神様

 芸術祭は2010年7月19日から10月31日までの間、高松港周辺と、直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島の七つの島で開催される。
 豊島では直島福武美術館財団が主体となり、「水」をコンセプトにした新たな美術館が建設される。
 棚田の中に「一滴のしずく」として美術館を置き、建築と作品と環境が一致し、分離できないで存在する場をつくる。2009年2月に着工した美術館建設現場で、8月初旬、少し不思議なことが起こった。高さ30センチほどの小さな祠が発見されたのだ。
 海岸近くにある丘の中腹にあったそれは、瀬戸内海に背を向け、2010年8月末に完成予定の美術館の入り口の方を向いて建てられていた。
 7月、美術館財団理事長で瀬戸内国際芸術祭総合プロデューサーの福武總一郎さんが視察に訪れた。現地を歩いた福武さんが、唐戸の港が見えるようにしたいと希望し、その眺望のために下草を整備したら祠が見つかったという。祠は山の方を向いて建てられており、山の神様を祭っていると推察される。祠はこのまま残し、新しい美術館を見守ってもらうこととなる。

 

精錬所から美術館へ

 かつて銅の精錬で栄えた犬島(岡山県)でも、芸術祭への住民の期待は強い。明治30年に約6000人いた島民も現在は55人、高齢化率は76%に上る。しかし、循環型社会をテーマにした精錬所美術館が建てられ、「今では年間16,000人以上の観光客が訪れるようになった」と美術館財団の下岡尊文さんは話す。精錬所では煙突の特性を利用し冷暖房を一切使っていない。ボランティアガイドの次田智恵子さん(75)は、子供の頃、煙突を通る涼しい風を感じたことを今でも思い出す。

 「島の風景に溶け込んだ祭りにしたい」。香川県職員で芸術祭推進室の岡内浩二さん(48, 写真)は、美術館の中だけではなく、住民の方々と共に芸術祭を作り上げることが大切だと意気込む。過疎が進む島々にアートの力で世界中の人々を集め、瀬戸内海の魅力を「再発見」してもらうのが狙いだ。香川県の目標来場者数は30万人だ。
 直島や犬島のボランティアガイドでは、その土地を長年愛してきたお年寄りの方々が生き生きと子供の頃の記憶とアートを語る。どれだけ島の住民を巻き込んだアートを展開できるか。新しい美術館がつくられる豊島の課題はそれではないだろうか。

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※この記事は、09年夏の「直島・豊島インターンシップ(ベネッセ、直島福武美術館財団など協力)」で、瀬川至朗先生の指導のもとに作製しました。

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