早稲田松竹映画劇場と早稲田大学

 早稲田大学生が、高田馬場駅から歩いて大学キャンパスに通うことを「ババ歩き」という。その途中、早稲田通りの右手に「早稲田松竹」の看板が見えてくる。1951年(昭和26年)の設立以来、映画文化の象徴的な存在として親しまれて…

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 早稲田大学生が、高田馬場駅から歩いて大学キャンパスに通うことを「ババ歩き」という。その途中、早稲田通りの右手に「早稲田松竹」の看板が見えてくる。1951年(昭和26年)の設立以来、映画文化の象徴的な存在として親しまれてきた名画座だ。早稲田の学生に愛され続けてきた早稲田松竹と学生の関わりあいを調べた。

早稲田松竹劇場

 そもそも、名画座とはロードショーなどの公開が終わった映画を上映する映画館である。いわゆるシネマコンプレックスの映画館と比べ、入館料が安く、さらに通常、名画座では2本上映で入れ替え制がない、一本あたり500円程度で見られる計算になる。早稲田松竹では、大人1300円、学生1100円であった。

 古い映画を上映する名画座は、館内も古くさいイメージがつきものだが、初めて入った早稲田松竹の館内は、明るく清潔感があった。数年前?に改装工事をし、以前200席はあった上映シートを156席に減らし、その分、足を伸ばせるほどゆったりと座れるようにした。座り心地は申し分ない。2本の連続上映でも疲れずに観ることができる。


 そんな早稲田松竹が2002年に休館したことがある。その際には早稲田の学生たちが「早稲田松竹復活プロジェクト」を立ち上げ、署名活動に取り組んだ。

 支配人の菊田眞弓さん(写真)に当時の事情を聞いてみた。

 「実は、営業を一時停止しましたが、人員の確保が出来次第再開するということで、閉鎖の予定はなかったのです。私自身、再開に向けて、4月?には面接を受け支配人として働くことが決まっていました。それでも学生プロジェクトのおかげで注目され、営業再開時には大きなイベントになりました。お客さんもたくさん来てくれました」


 再開当時は学生の来館者が多かった。寺山修二監督の特集を上映したときも学生が大勢来るなど、最近、学生の姿を見ることが増えたそうだ。早稲田松竹復活プロジェクトが、学生の間での早稲田松竹の認知度を上げるきっかけになったのでは、という。


「イベントはスイッチだ」

 その早稲田松竹復活プロジェクトを中心的に運営したのは、現在、イベントプランナーの仕事をしている沼田真一さんだ。

 当時、早稲田松竹が閉館の予定ではなかったことは知らないまま、自分たち独自に動き勝手に盛り上がったそうだ。しかし、学生プロジェクトをやってよかったという。


「イベントっていうのはスイッチなんだよ。イベントを通して自分自身も変わるし、そのイベントにかかわった人たちも、イベントというスイッチを押されたことで動き出す」


 大学卒業後、沼田さんは、愛・地球博でのイベントなどを通して、多くの人々の意識が変化していく様子をみてきた。人々の交流の場を作るきっかけになるようなイベントをこれからも打ち出していきたいと語る沼田さんにとって、早稲田松竹復活の学生プロジェクトが原点だった。


映画を通したコミュニケーション

 現在の早稲田大学生と早稲田松竹をつなげる組織として、「名画座walker」という学生サークルがある。サークル代表の香田裕貴さんによると、2007年秋の早稲田祭で人に呼びかけ、設立した。そもそも映画が好きで、名画座の良さを伝えたいとの想いから、たった一人でビラを構内に数千枚張った。名画座を知っている人はいたが、中に入ったことのある人はいなかったため、予想以上に人が集まったという。メーリングリスト登録者は現在約50名だ。実際の活動には約20名が参加する。


 「チラシを作るのが割りと好きなんすよね」。早稲田松竹と名画座ギンレイホールの支配人の話をまとめた冊子を、名画座はもちろんのこと、早稲田大学内や古書店に置いてもらって名画座の良さを広めている。彼もまた、名画座の良さに惹かれ、人と人の交流を作り出そうとしている。


 早稲田松竹と早稲田の学生の付き合いは、おそらく早稲田松竹設立以来のものだろう。復活プロジェクトや名画座walkerという学生主体の活動は、その歴史の一断面なのかもしれない。


 「最近はレンタルビデオで映画を楽しむ人が増えているみたいですね。それでも映画は映画館でみたいと考えている人たちが、早稲田松竹には来てくれるのです」と支配人の菊田さん。


 若い頃に早稲田松竹で観た映画のパンフレットを持ってきて、当時の様子を語る常連のおじいさんもいる、早稲田松竹は、語らいの場としても機能している。映画を通したコミュニケーションを大切にしている人たちが早稲田にはいる。


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※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームD」において、瀬川至朗先生の指導のもとに作成しました。

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