変わりつつある新聞配達の現場〜新聞奨学生制度の現状

 多くの学生たちに学びの機会を与えてきた新聞奨学生制度が、今、縮小の危機に陥っている。最大の原因は人手不足だ。とりわけ、新聞奨学生の大半を占めていた大学生の希望者減が顕著だという。早稲田大学近辺の新聞販売店も例外ではない…

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 多くの学生たちに学びの機会を与えてきた新聞奨学生制度が、今、縮小の危機に陥っている。最大の原因は人手不足だ。とりわけ、新聞奨学生の大半を占めていた大学生の希望者減が顕著だという。早稲田大学近辺の新聞販売店も例外ではない。

「かつて、貧乏学生は早稲田に集まり、金持ち学生は慶応に行った。だから、早大生の新聞奨学生の確保には苦労しなかった」

 早稲田大学の近くで早稲田で長年にわたり日経新聞販売店を経営してきた長谷川孝夫さんは、懐かしそうにそう語った。

 長谷川さんの店は、早稲田大学早稲田キャンパスから徒歩1分の至近距離にある。現在、総勢15名の新聞奨学生がいるが、ほとんどは専門学校生だ。大学生はわずか2名、うち早大生は1名しかいない。

 「早稲田大学に通うには最高の立地だと思う。昔は早稲田の学生さんでいっぱいだったが、最近、早大生の奨学生は全然来ない」(長谷川さん)

 なぜ早大生は奨学生にならなくなったのか。長谷川さんは「昔は兄弟の数が5人6人と多かったが、今は少なくなった。その分一人一人にお金をかけられるようになった。大学に行くのに、わざわざ子供に辛い労働をさせる必要はなくなった親が増えたのだろう」と推察する。


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 新聞奨学生制度は、新聞社が販売店の人員確保のため、学生を対象に行っている奨学金制度。新聞社が学費の全部もしくは一部を肩代わりする代わりに、奨学生は在学中の間、新聞販売店での業務に従事する。その間は毎月給料が支払われ、寮など住居も提供される。途中で退会した場合は、勤続期間に応じた奨学金の返済義務が発生する。

 早稲田・高田馬場近辺で計○○カ所の新聞販売店を取材した。販売店の店主は「やはり新聞奨学生に来てもらいたい」と口をそろえる。一般に新聞販売店の社員の離職率は高い。それに比べ奨学生は奨学金の返済義務があるため離職率は低く、長期間の安定した労働力を見込むことができる。今は中国や韓国からの留学生を採用したり、店主自らが近くの学校にスカウトに行ったりして何とか確保しているのが現状だ。

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 今の学生が新聞奨学生を敬遠する理由の一つが、「新聞奨学生は辛い」という過酷な仕事のイメージだ。たしかに、過去には過労死した奨学生がいるなど、常識化しているが、それは現代にもそれは当てはまるのだろうか。そんな疑問が湧き、新聞奨学生に実際の生活について話を聞くことにした。

 神野三郎さん(仮名・23)は、上京して早稲田大学で学ぶために、新聞奨学生を選択した。浪人生時代から新聞奨学生をはじめ、今年で5年目のベテランだ。

 仕事は早朝の午前2時半から約3時間、夕方は午後3時から2時間強。集金業務がある場合はさらに3時間加わる。仕事時間が特殊だが、一度慣れてしまえば、自分の時間を有効に活用できる。神野さんは夕刊配達後を使い、キャンパスライフを満喫している。

 神野さんは「夜は授業のないときはサークル活動。給料はほぼ自分のために使えるので、ほとんどサークル活動に使ってます。その代わり朝刊の後は昼まで寝ています」と話す。ほかの奨学生達も楽器の練習や資格の勉強など、空いた時間を自分のために有効に使っている。

 「普通に比べれば辛い仕事なのは確かです。ただどんな仕事でも辛いのは当たり前だし、仕事に追われて何もできないというほどでもない。それに根気はつくし、就職活動ではいい話のネタになりました。」(神野さん)

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 雇用者側も変化してきている。

 前述の長谷川さんは、大学生の雇用には大変気を使っているという。具体的には、授業を優先して勤務時間やシフトの調整をしている。同様の措置を取っている店は多い。

 労働環境の改善については、ある店主(30)が興味深い話をしてくれた。自身、数年前に先代から販売店を受け継いだそうだ。

 「今、販売店の世代交代が進んでいる。奨学生がそのまま販売店に就職したり、大卒の若者が販売店に就職したりして、経営者に若い人が増えた。彼らは奨学生や職員の感覚に近い。それが待遇改善につながっている」

 ただし、注意しなければならないこともある。

 ある店主は、自らが奨学生だった経験をもとに、「新聞社も新聞販売店もひとつの企業。だから新聞奨学生になるなら、ちゃんと事前に自分で調べてから決めたほうがいい。説明会なんていいことしか言わないんだから」とアドバイスする。

 来年度から奨学金を増額する新聞社もあると聞く。学費に悩む学生は、ひとつの選択肢として新聞奨学生の道を考えてもいいのではないか。取材してそう思った。


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※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームD」において、瀬川至朗先生の指導のもとに作成しました。

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