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解説 法律違反改まらない政府の意見公募制度  チェック体制の充実と府省関係者の意識改革が必要

ジャーナリズムコースの取材班による2年続けての調査取材で、政府のパブリックコメント(意見公募手続き)制度が、適切に運営されていない現実がはっきりしてきた。原因として、各府省の運営が適切かどうかを調べる「チェック体制の不備」や、国民の意見を取り扱う各府省関係者の「責任感の希薄さ」といった点を指摘できる。

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総務省が注意喚起をしたものの・・・

  総務省は、違反事例の指摘を受けた2009年2月、各府省の意見公募担当課長に対し、政令などを公布した後、結果公示が遅れることがないよう、注意喚起を促す文書を出した。しかし、具体的に「このパブリックコメントの結果の公示が遅れている」といった個別指導を、総務省がしているわけではない。募集期間を短縮したような事案も、チェックしていない。また、各府省の担当者を対象とする研修も実施していないという。結果公示の手続きが滞っていないかどうかを調べるのは、あくまで、その事案を担当する個々の府省という考えだ。

  総務省は、年1回、意見公募手続の施行状況について報告書を出している。報告は、その年度に意見募集を実施した事案が中心で、長期にわたって結果公示がなされていない事案についての言及はない。遅れないようにと、かけ声をかけてみたものの改善が進まないは背景には、こうしたチェック体制の不備がある。

 

希薄な法律違反という意識

  取材班の記者(院生)は、大幅に公示が遅れた事案について、関係府省に対し、その理由を尋ねた。経産省のある担当者は「提出意見がなかったから、結果公示の緊急性に対する認識が弱かった」と説明し、環境省の担当者は「忙しいので滞っている」と答えた。最長3年5カ月の遅れがわかった経産省の事案は、「パブコメ担当者と結果公示担当者の間の事務的な行き違い」が遅れの原因だという。ほかにも「担当者が変わって、そのままになっていた」とするものも少なくない。

  こうした「法律違反という意識の薄さ」はどこから来るのだろうか。結果公示の遅れた事案には、公募意見ゼロのケースが多かったことから分かるように、意見公募制度の形骸化を挙げることができる。一方で、今回、行政手続法違反であることが判明した事案の担当者のほとんどは「(違反に)気づかなかった」と回答している。意見公募制度は行政への市民参加の手段として整備されてきたが、そのことに対する、行政関係者の責任感の薄さ、認識の欠如を物語っているといえる。

 

同様の法違反が繰り返される懸念も

  2009年2月の調査報道では、「1年以上の結果公示の遅れ」を一つの物差しに行政手続法違反の事例を分析した。しかし、数カ月、半年の遅れが正当化されるわけではなく、今年は、「半年以上」を基準に結果公示の遅れを調べた。その結果、「半年以上」の違反事例のうち85%が「1年以上」の違反事例だった。

  3月23日現在、意見公募の締切り後2年以上経過しても、なお結果が公示されない事案が7件(農水4件、厚労3件)ある。今年3月末で改正行政手続法施行から丸4年となるが、その施行直後から長きにわたって違法状態が続いている。

  2009年2月の国会で、当時の鳩山邦夫総務大臣は、「パブコメの意味を真剣に考えない空気が霞が関に充満しているならば、その空気を吹き払う必要がある」と答弁した。意見公募の意味を真剣に考え、担当者が変わるなどしてもきちんとやれるようなチェック体制の整備を期待したい。

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※この記事は09年J-School後期授業「調査報道の方法」(瀬川至朗先生)での学生による調査活動をもとに構成されています。

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