1002-abstop

全18閣僚記者会見、その実態は千差万別

「Spork!」記者による全18閣僚記者会見への参加要請に、各省庁・記者クラブは様々な反応を見せた。「大臣記者会見の開放」と単純には言えない実態が明らかになった。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 全18閣僚記者会見、その実態は千差万別
Share on Facebook
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip

 

「大手出版社もダメ」が実情首相の「もっと開放」発言の後も変化見えず

●鳩山由紀夫・内閣総理大臣@内閣官房

 鳩山首相は2009年暮れの記者会見で「記者会見の開放に関しては、来年からもっと開放されるようにやるようにと、申し伝えている」と述べたが、その後も今年1月末時点で、総理大臣の記者会見のあり方に大きな変化はない。1月の記者クラブ(内閣記者会)幹事社を務めた読売新聞記者も「首相側からクラブへ、記者会見開放に関する具体的な話は来ていない」と答えた。

 クラブには規約があり、原則として会員でないと会見に参加できないことになっている。参加要請があった場合は毎回協議して可否を決めているというが、「雑誌協会に加盟している大手出版社であっても参加できていない」(読売新聞記者)のが現状だという。

 総理官邸報道室の若尾氏は官邸の警備上の都合を理由に挙げ、「首相が勤務し、海外の要人も来られるため、官邸の警備担当から、『(総理官邸内に)たくさん入れてくれるな』という話がある。クラブから了承されたとしても、(参加は)現状では難しい」と答えた。

 クラブ幹事社の読売新聞記者は「会見の主催はクラブである」と回答した。一方、若尾氏は 「クラブと協力しながらやっているとしか申し上げられない」と答えた。その理由として過去に取り決めた経緯がなく定まっていないことを挙げた。

【松村大行】

 

クラブ外からの参加要請、内閣府・クラブともども初

●菅直人・副総理兼経済財政政策担当相@内閣府

 菅大臣記者会見について、内閣府報道室の金児氏は、そもそもクラブ外から参加したいという要望がなく、2009年12月15日に行った「Spork!」記者による参加要請が、初めての要請であったことを明らかにした。一方、今年1月のクラブ幹事社の読売新聞山本記者も、「(クラブへの参加の問い合わせは)確認できる限りではないと答えた。

 会見の主催について金児氏は、「明確に定めた規定はないが、内閣府とクラブの共催」と答えた一方、山本記者は、クラブ見解として「主催は私たち」と主張した。

 金児氏によると、「内閣府とクラブの両方が了解する必要がある」という認識のもと、会見場の収容人数や建物警備の観点から参加を拒否したという。一方山本記者は、外部からの参加について、「これまでクラブで具体的な検討を行った経緯はなく、今後も検討する予定がない」と答えた。

【松村大行】

 

クラブ非加盟でも質問認める条件は5団体の会員媒体

●原口一博・総務大臣@総務省

 総務大臣の記者会見を主催する総務省記者クラブは今年に入り、クラブに加盟しない一部の媒体や記者に対して、大臣に直に質問できる正式な参加を認めはじめた。ただし、日本民間放送連盟、日本雑誌協会、日本専門新聞協会、日本インターネット報道協会、日本外国人特派員協会の計5団体のいずれかの会員媒体であることが条件。「Spork!」はこの条件を満たさないため、質問不可のオブザーバー参加となった。

 今後、条件が緩くなる可能性について、今年1月の幹事社(朝日新聞・伊東記者)は、「条件に該当しない記者から『参加条件が厳しい』という声があるので、今後のクラブ総会で条件を見直す予定」と前向きな姿勢を見せた。

【伊藤恵梨】

 

「単独主催」と「共催」主催めぐり見解分かれる省とクラブ会見参加は「職業報道人」に限定

●千葉景子・法務大臣@法務省

 法務大臣の記者会見を主催しているのはだれなのか、法務省と記者クラブとの間で見解が食い違っている。「会見はクラブの単独主催」というクラブに対して、省の秘書課広報室報道担当は「記者クラブと省の共催」と切り返す。この状況を省側は「会見の運営には省も当たっている。その働きをどう捉えるかで主催者の捉え方も異なってくるのだろう。ゆえに双方に見解の不一致があってもおかしなことだとは思わない」と説明した。

 会見への参加はクラブが参加者を「職業報道人」に限定しているため叶わなかった。2009年12月に法務省記者クラブの幹事社を務めた朝日新聞の延与光貞記者は、学生ウェブマガジン「Spork!」の取材は「『報道の目的』にあたらないため会見には参加できない」と述べた上で、「『報道の目的』にあたる取材とは、報道の対価として収入を得ている職業報道人の取材を指し、記事の内容は判断材料とはならない」という同記者クラブ独自の基準を示した。法務大臣会見にはこの基準に基づき、すでにフリーランスの記者などが参加している。

【宮前観】

 

外務省記者会見、「オープンでない」

●岡田克也・外務大臣@外務省

 外務省の大臣記者会見は、政権交代直後の2009年9月に作成された独自のガイドラインに記載された5協会(日本新聞協会、日本民間放送連盟、日本雑誌協会、日本インターネット報道協会、日本外国特派員協会)の会員であることが参加の条件であり、該当しない者の参加を一切認めていないことが分かった。外務省報道課記者会見担当の山内氏が答えた。

 山内氏はインターネット報道協会への加盟を勧めたが、同協会代表幹事の竹内氏は「全ての決定は理事会に一存されている」ため、加盟の可能性は即答できないとした。

 会見の主催は外務省であると、昨年9月29日に岡田大臣が明らかにしている。一方、外務省の記者クラブ(「霞クラブ」)の幹事社である東京新聞政治部佐藤記者は、「明確な認識はしていないものの、共催に近い形として理解している」と答えた。

【付天斉】

 

「オープン化のブーム去った」会見は「YouTube」で

●川端達夫・文部科学大臣@文部科学省

 大臣会見を主催する文科省記者クラブ(文部科学記者会)は、文科省広報室が会見の映像をインターネット動画サイト「YouTube」に投稿していることを理由に「Spork!」の参加要請を認めなかった。質問しない前提での参加も「『YouTube』があるのだから来る意味がない」として断った。

 これまで、クラブには雑誌やインターネットメディアからの会見参加要請が相次いだが、現在、会見参加要請の問い合わせは「今年に入ってから減少している」と、2009年1月に記者クラブ幹事社を務めた日本工業新聞の原田記者は明かし、「ブームは去った」との見方を示している。

 一方、文科省広報室は大臣会見のあり方について、主導権はクラブ側にあるとした上で「『今後広く開放の方向へ』という提案をした」と話した。

 

専門誌・ネットメディアに開放 以前から

●長妻昭・厚生労働大臣@厚生労働省

 大臣会見を主催する厚労省記者クラブ(厚生労働記者会)は、会見中質問しないことを条件に「Spork!」の参加を認めた。2009年12月に記者クラブ幹事社を務めた毎日新聞社の佐藤丈一記者によると、「以前から専門誌やネットメディアが相乗りしている現状があり、依頼があれば質問しないことを条件に受け入れている」と述べ、すでに記者クラブ加盟社以外にも会見を開放していることがわかった。この背景には「厚労省が取り扱う分野が専門的で多岐に渡るという特殊性がある」という。

 当初記者クラブは「会員以外の出席は認めない」という運営上の規約を理由に承認しなかったが、加盟社で協議した結果、以前から受け入れているネットメディアと同様だと判断され、2010年1月19日の大臣会見への参加が許された。

 

会見参加、法人従業員に限定 捕鯨問題はAP参加

●赤松広隆・農林水産大臣@農林水産省

 農水大臣の会見を主催する記者クラブ(農水クラブ)の今年1月の幹事社を務めた日本農業新聞川島記者は「定期的に記事を書いているか」「プロであるかどうか」が参加の判断基準になると答え、「プロ」の条件として「法人の従業員であること」という認識を示したうえで「Spork!」記者の参加を断った。一方実際に門戸を広げた例として、捕鯨問題の取材を申請したAP通信の参加を認めた事実を明かした。

 クラブに記者会見の参加に関する規定はないが、会員を新聞社やテレビ局等に限定しているクラブ規約と、会見をクラブが主催している事実を照らし合わせて判断したと答えた。

 政権交代前から会見参加の要請があればその都度検討していたが、政権交代を機に要請が増えているという。

 一方、農水省報道室企画調整班の酒井氏 は質問ができないオブザーバー扱いでの参加という前提のもと「(幹事社が了承すれば)お断りする理由がない」と答えた。

【松村大行】

 

「運営負担増の恐れ」会見参加は「大手メディア」に限定

●直嶋正行・経済産業大臣@経済産業省

 経済産業大臣の記者会見は、主催者である経済産業省記者クラブが「会見運営の負担が増す恐れから、参加を大手メディアに限定する」との方針をとっており、「Spork!」記者の参加はかなわなかった。

 2009年12月に同クラブの幹事社を務めた朝日新聞の星野眞三雄記者は「Spork!」の取材について「『報道の目的』にあたらないため、会見に参加いただくことはできない」と述べた上で、「『報道の目的』に当たる取材とは、広く公に対して報道し,影響力をもつマスメディアの取材をいう」との基準を示した。この基準を定めた理由については「ブログ記事などまで『報道の目的』にあたると判断すると会見に参加できる人の範囲が広がりすぎて、会見の運営に支障が出る恐れがあるため」と説明した。

 なお法務省の記者クラブは「報道の目的」に当たる取材を報道の対価として収入を得る者の取材と解釈している。この見解について意見を求めると、星野記者は「収入を判断基準とすると広告費を得ているブロガーやミニコミ誌の記者までが会見に参加できることになり、やはり会見の運営に支障が出る」と話した。

【宮前観】

 

「質問禁止」のオブザーバー参加 実際は質問可能

●前原誠司・国土交通大臣@国土交通省

 国土交通記者会が主催する大臣会見へは、「質問をしない」、「参加者は各社1名」、「会見室受付への名刺の提出」の3点を条件に2009年12月、参加が認められた。しかし実際の会見は挙手をして大臣から指名を受けた記者であれば誰でも質問が可能な形式となっていた。参加人数の確認や名刺の提出を求められることもなかった。

 会見への参加は、会見参加申込書を国土交通記者会へ提出し、会の了承を得ることで可能になる。申込書は会見日時、参加希望社名、記者氏名、電話番号などの所定事項を記入する形式。3つの参加条件も申込書に記されている。

【宮前観】

 

幹事社判断で賛否が揺れる判断基準は「報道機関の役割果たすか」

●小沢鋭仁・環境大臣@環境省

 会見を主催する、環境省記者クラブ(環境問題研究会)は、「報道機関の役割を果たすか」を参加可否の判断基準としているが、担当幹事社によって判断が分かれた。

 「オブザーバーとしての参加なら認める」(2009年12月の幹事社、朝日新聞・山口記者)という回答もある一方で、今年1月の幹事社である共同通信・桜井記者は「『Spork!』は報道機関としての役割を果たさない」と判断し、結論として参加を拒んだ。参加を拒んだ理由について、桜井記者は「基本的にジャーナリストを排除することはおかしいが、セキュリティの観点から、報道機関としての役割を果たしているかが判断の基準となる。『Spork!』を学校側に確認したところ、報道機関ではなく学生の発表の場という回答を得た。連絡先も書かれておらず、公益性が高いメディアではない」と話した。

 この指摘に対し、「Spork!」編集長で、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコースを担当する瀬川至朗教授は「『Spork!』が学生の発表の場であることは確かだが、同時に『報道目的』のウェブ・マガジンとして機能している。今回の記事もその一環として掲載している」と話した。

【伊藤恵梨】

 

「会見場狭さ」協議続く 外部参加不可のまま

●北澤俊美・防衛大臣@防衛省

 防衛大臣の記者会見を主催する防衛省記者クラブ「防衛記者会」は、会員でない外部の記者への会見の開放について、2010年1月25日の時点では「クラブ内で協議中」としている。「Spork!」記者の記者会見への参加要請に対しては、「協議の結論が出ていない」として拒否した。この協議では、「会見場の狭さ」が問題点として挙がっているという。

 09年12月の防衛記者会の幹事社は、「会見場には外部の記者を入れるスペースが十分にない」、「外部からの参加者がどのくらい集まるかについても予想がつかない」と話した。

 省の施設が問題になっていることについて、防衛省大臣官房広報課報道室の小川清美氏は、「省と防衛記者会の関係に関することなので、コメントできない」とした。

【岡田圭司】

 

一時はクラブ外15社参加 再び門戸閉ざす

●平野博文・内閣官房長官@内閣官房

 官房長官の記者会見を担当する記者クラブ(内閣記者会)は、2009年9月16日の全閣僚就任会見において「例外的」に雑誌協会加盟社など15社の参加を認めた一方、それ以降の長官会見で、記者クラブ外からの参加を認めていない。今年2月の記者クラブ幹事社である日本テレビ記者が明らかにした。

 記者クラブは会見への「Spork!」記者の参加要請に対し、クラブ会員でないことを理由に拒否した。総理官邸報道室の笹川氏も同じ理由で参加を認めなかった。また会見の主催については記者クラブは「クラブ主催」と回答した一方、笹川氏は「はっきりしていない。クラブと協力しながらやっているのが現状」と答えた。

 主催が定かでないのに参加を拒否した根拠として、笹川氏は「私たちに官邸の建物を管理する権限があるので」と述べた。また記者クラブ外からの参加について、「民主党政権になってから検討はしている」と答えたが、詳細については明らかにしなかった。

【松村大行】

 

参加基準、警察庁が検討 クラブ「聞いていない」

●中井洽・国家公安委員会委員長@警察庁

 政権交代を機に、記者クラブに属さない記者が国家公安委員長の記者会見に参加する際の基準を、警察庁が検討していることが分かった。広報室の長谷川係長が、「Spork!」記者による会見への参加要請に対して明らかにした。それについて、警察庁記者クラブの今年1月の幹事社、共同通信・粟倉記者は、「(クラブとして)聞いていないしタッチしていない」と答え、警察庁での検討状況に関わらず、「クラブとして、記者ならば会見に受け入れる」という考えを示した。

 会見に関する明確な規約がないなか、主催をめぐって警察庁と記者クラブの見解が分かれた。長谷川係長は「大臣が主催している」と主張、粟倉記者は「当局が発表している場に行くのではない。どこまでいっても譲れない」として主催はクラブであると答えた。

 長谷川係長はクラブ員以外の記者を警察庁の庁舎内に入れることについて、「不用意に部外者を入れると捜査情報が流出しかねない」という懸念があると答えた。また粟倉記者は会見参加について、会見場を管理する警察庁に参加者自身で入庁の許可で得ることが前提条件であるとした。

【松村大行】

 

官僚が「プロのジャーナリスト」判断

●亀井静香・内閣府特命担当大臣@金融庁

 大臣会見への参加申し込み(09年11月)に対し、広報室は記者を”プロのジャーナリスト”ではないと判断し、断った。金融庁は記者クラブ加盟社以外でも会見に参加し大臣に質問できるよう、大臣主催による会見も開催。取材を広く受ける姿勢を示している反面、権力の監視役であるはずのジャーナリストを、監視されるべき権力側が指名するという実態が浮き彫りになった。

 広報室担当者によれば、”プロのジャーナリスト”とは明確な基準はないが、職業として報道に携わる人を指すと考えているという。会見への参加希望があればその都度、広報室で適当か議論し回答を出すとした。

【前岡愛】

 

業界紙なども会見参加 「クラブ限定は時代遅れ」


●福島瑞穂・内閣府特命担当大臣@消費者庁


 消費者庁は2009年9月の設置以来記者クラブ加盟社以外にも大臣会見の参加を認めている。同庁を設置する際、記者クラブ内の議論で「クラブが会見を独占するのは時代遅れだ」という見解になったため。


 会見の主催に関しては消費者庁と記者クラブ間で意見が異なる。


 同庁広報室長斉藤伸郎さんによれば会見は「大臣主催による記者クラブ向けのイベント」であり「クラブ以外にも開放している」という。


 一方、記者クラブ担当者は会見の主催は記者クラブにあるとした上で「役所主催の会見は途中で打ち切られることもあった」と話す。各省庁の記者会見とは「記者クラブが何年もの交渉の上、獲得した時間と場所」という。 


【前岡愛】

 

クラブ外から参加無し 会場狭く顔見知りばかり

●仙谷由人・内閣府特命担当大臣@内閣府

 仙谷大臣の記者会見を担当する記者クラブ(内閣記者会)の今年2月の幹事社である日本テレビ記者は、「フリーの記者から参加の要請が来ている」としたうえで、「会場がとても狭く、記者は顔見知りばかりだが、知らない人が来た覚えはない」ことを明かした。

 「Spork!」記者の参加要請に対して日本テレビ記者は、「クラブ外の記者に対して、どういうかたちでどこまで広げるのか、まだ結論に至ってない」との理由で拒否した一方、「話し合いの決着がつきしだい広報する」と答えた。

 内閣府政策評価広報課の飯塚氏は、「会見は記者クラブ主催である」と回答、記者クラブから参加の了承が得られれば内閣府として受け入れるという方針を示した。

【松村大行】

 

クラブ外記者は質問禁止「マーケットが神経とがらす」

●藤井裕久・財務大臣(当時)@財務省

 財務大臣の記者会見を主催する財務省の記者クラブ「財政研究会」(財研)は、会員でない外部の記者にも、「取材を強制的に制限する立場にない」として、記者会見への参加を認めているが、質問は禁止している。2009年11月に財研の幹事社であった共同通信社の澤井章記者はその理由として、クラブの慣例であることと「財務相の一言一句に対して、巨額のポジション(金融商品の持ち高)を構える金融マーケットが神経を尖らせている」ことの2点を挙げた。

 「Spork!」の記者も2009年12月9日の記者会見に出席できたが、その条件として質問は禁止された。

 財務省大臣官房文書課の赤荻武広報企画専門官によれば、オブザーバー参加は非常に多く、特に雑誌記者の参加が目立つという。

【岡田圭司】

j-logo-small.gif

※この記事は、09年後期のJ-School講義「調査報道の方法」において、瀬川至朗先生の指導のもとに作製しました。

合わせて読みたい

  1. 筑紫哲也氏追悼シンポジウム(3): 日本の政治報道が抱える諸問題
  2. 中国農村の内需に点火した「家電下郷」
  3. 早大院生、福武ベネッセ会長の「ジャーナリズム観」に迫る
  4. 筑紫哲也氏追悼シンポジウム(8): まとめとして〜映像メディアと活字メディア