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中国農村の内需に点火した「家電下郷」

 世界不況の様相を呈する今、世界各国が内需を刺激するため、多種多様な策を試している。中国でも2007年末から農村消費市場を底上げするため実験的に「家電下郷」というプロジェクトを実施してきた。そして今年、中国中国商務部と財務部は全国31省・市・自治区に拡大することを決定。ついに全国展開されるようになった。中国政府が期待をかける家電下郷とはどのようなものなのか。

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「家電下郷」とは

 「家伝下郷」とは、簡単にいえば「特定の家電製品を購入する農村部の消費者に対し一律13%の補助金を出す」という内容であり、指定メーカーと販売店がオープンな方法で選ばれている。

 さて、この記事を執筆している時点(2009年8月)で中国の内需拡大政策「家電下郷」は、既に半年間実施されているが、いったい効果はどうだろう。「家電下郷」政策が農村での実施効果了解するため、中国湖南省耒阳市小水町を訪ねた。
 湖南省は長江中下流に位置し、水稲生産が盛んで、中国の主要な米産地である。南の広東・広西両省区との間には南嶺山脈が走る。小水町は耒阳市近郊でも豊かな町のひとつと見られている。

 

「家電下郷」プロジェクト指定販売店

 小水町では十数箇所の「家電下郷」指定販売店があって、その中「小水町海尔専門店」(海尔は中国で有名な電気メーカーである)がある。「小水町海尔専門店」の店長の話によると店舗に販売しているテレビ、洗濯機、冷蔵庫など商品は全部「家電下郷」プロジェクト対象商品だが、電子レンジなどまだ対象商品に入っていない。しかし、10月からは二輪車やパソコン、電子レンジなども対象商品に入る。

 「小水町海尔専門店」の最近3カ月の売上は、前年同期より20%増加し、特に冷蔵庫の売上は二倍に達している。毎日、ここにやってきて問い合わせをする農民たちも多い。例えば2000元(3万円弱)の冷蔵庫だったら, 13%の補助金をもらうと1700元位(2万6千円)になる、5000元(7万円)以上のオートバイだったら、13%の補助金は1万円以上になる。この13%の補助金は低収入の農民たちにとって、本当にありがたいものだ。
 良質な家電を格安に購入できる「家電下郷」プロジェクトは農民に大人気だが、一方で店長は困惑していた。その理由を尋ねたところ、店長は「買い物に来る農民が絶えないと当時に、補助金の払いを要求するために来る農民も多くなる」と話した。
 実は、「家電下郷」プロジェクトの実施に際し、中国政府は「購入から27日以内に補助金を払う」と約束したが、実際には購入日から補助金の支給までは、3か月以上かかっているのである。しかも、町の役所は補助金支給方法の説明をしていなかったから、農民たちは補助金支給までの流れも知らない。こうした混乱の中で、政府への批判の声が高まっている。

 

農民側の実情

 「小水町海尔専門店」を離れた後、私は小水町内の7地域20戸の農民を訪ね、聞き取り調査をおこなった。私がインタビューしたうち、70%の農民は「家電下郷」プロジェクトを知っており、そのうち約半数の農民は、実際にプロジェクト対象商品を購入していた。しかし遅々として支給されない補助金に、農民たちは「そもそも本当に補助金が出るのかどうか」と疑っている。  一方で、「家電下郷」プロジェクトを知らなかった残り30%の農民は、主に高齢者であった。彼らは一様に貧しく、子供も出稼ぎに出て家を離れている。新しく電化製品を買う余裕も無い彼らにとっては「家電下郷」プロジェクトは、そもそも意味がないのである。

 経済危機に呼応するかたちで行われた「家電下郷」プロジェクトは一応の成功を収めつつある。しかし同時に、中国政府の信用も危機に晒されているのである。

 

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※この記事は、09年のJ-School講義「WebジャーナリズムA」において、田中幹人先生の指導のもとに作成しました。

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