日本の有人宇宙開発のゆくえ

 米国、ロシア、中国が有人宇宙開発を推進する中、日本政府は今後10年、独自の有人宇宙船や宇宙ステーションの開発には着手しない方針だ。5月の日本地球惑星科学連合大会で講演した、宇宙航空研究機構(JAXA)総合技術研究本部参事の木部勢至朗さんに、日本の宇宙政策について話を聞いた。

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世界の宇宙開発と日本

 宇宙に行くことは人類の昔からの夢だ。しかし宇宙開発には膨大な資金がかかることから、政府では「宇宙に行くことに見合う国益はあるのか」という議論が行われる。政府は2004年9月の総合科学技術会議で、確実な利益が見込めない有人宇宙開発より、太陽系探査や天文観測などを推進する方針を示した。有人宇宙開発については、今後10年は国際宇宙ステーション(ISS)計画への協力にとどまり、20〜30年後に独自の有人宇宙開発に取りかかる可能性を示した。   

 現在、有人宇宙飛行に成功しているのは、米国、ロシア、中国の3カ国だ。 米国は壮大な有人宇宙計画を立てている。スペースシャトルに代わる新たな有人輸送手段(CEV)の開発に取り組んでおり、アポロ計画以来の月面着陸、さらに月を拠点とした火星への有人探査を視野に入れている。 中国は近年、独自の有人宇宙船の打ち上げに2度成功し、宇宙大国の地位に躍り出た。中国の宇宙船は、ロシアが長年培ってきた有人技術を再現したもので、高度な新技術は採用していないとは言われているものの、技術基盤を着実に蓄積してきたことが、一連の成功の要因と考えられる。

 国際的には遅れをとった形の日本は、今後どの方向に進むのか。総合科学技術会議の方針を受け、JAXAは具体的な長期計画を提示し、約20年のうちに「独自の有人滞在・活動を可能とする技術の確立をめざす」という目標を打ち出した。国策という縛りがかかった中で、JAXAとして最大限の意欲を示したものだ。 「有人宇宙開発はやるべきだ」と木部さんは語る。このままでは将来、他国は自由に宇宙へ行けるが、日本は他国に頼まないと宇宙へ行けないという状況が起こり得る。また、万一、地球に人類存続の危機が訪れたときに、他の星に逃げる手段を持ち合わせていない日本人は、危機を回避できない。木部さんは「有人宇宙開発への取り組みが、今後の日本の姿を左右し得る。日本国民の誇りを維持するために、科学技術による立国を目指すべきだ」と強調した。

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