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意見公募制度 7府省が行政手続法違反

結果公示最長951日遅れ、院生の指摘で厚労省「不適切」認める

 国の政令や省令の制定などについて国民の意見を広く求めるパブリックコメント(意見公募手続き)の制度で、厚生労働省など7つの府省が、行政手続き法に違反し、結果の公示を怠っていた事例があることが、ジャーナリズムコースの記者(院生)の調査で分かった。記者が今年1月4日に公示の遅れを指摘したところ、各府省は2月15日までの1ヶ月半の間に、政令等の公布から1年以上経過し、明らかに違法状態にある33件の結果を相次いで公示。最長951日も怠っていたケースが見つかった。違反事例の多い厚生労働省は、2月6日、不適切な事案を認めるプレスリリースを公表、朝日新聞、共同通信で報道された。

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調査とその結果

 パブリックコメント(意見公募手続き)は、行政に市民が参加し、手続きを透明化する手段。政府の行政機関が政令、省令、規則、審査基準、指針などを定める際は行政手続法に基づき、事前に案や資料を示して国民の意見を公募しなければならない、同法の規定では、提出された意見や提出意見を考慮した結果などを、政令等の公布と「同時期」に公示する必要がある。「同時期」とは「何日以内という基準が考えられるものではない。基本的に同時」とする解釈が、総務省行政管理局長により2005年6月に示されている。

 記者は「パブリックコメントは機能しているのか」という問題意識のもと、結果の公示の実態を調べることにした。政府の電子政府の総合窓口(e-Gov)に掲載されている、「意見公募の終了案件一覧」と「結果公示案件一覧」を比較分析した。

 その結果、「意見公募の締切り」から1年以上経過しても公募結果を公示していない事案が、2008年末時点で、厚生労働省、国土交通省など7府省で計92件あり、経過日数の平均は604日に達することが分かった。ただし、「意見公募の締切り」と「結果の公示」の間については法的な規定がなく、また、「意見公募の締切り」から「政令等の公布」までの「意見考慮期間」に時間を要するケースもあるため、これだけで法律違反とは言い切れない。

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 今年1月だけで1年遅れの違反25件

 そこで、記者は、今年1月4日、結果公示が遅れている事案の存在を、各府省に対し文書で具体的に指摘した。それを受けた形で、今年1月、「意見公募の締切り」から1年以上が経過した32件の結果が相次いで公示された。政令等が公布された日付との関係を調べると、そのうち25件が公布から結果公示までに1年以上かかり、明らかに行政手続法違反といえる状態だった。2008年は、1年以上の遅れで結果公示をした事案が1年間で12件だったので、今年1月の公示ラッシュぶりがわかる。

 25件の公布後の平均経過日数は536日だった。最も結果公示が遅れたのは、厚生労働省所管の身体障害者福祉法・知的障害者福祉法関連の告示に関するものだった。公募締切りから932日、告示から923日が経過していた。

 1年遅れの違反事例を詳しくみると、意見公募期間は平均28.9日で、原則の30日に足りなかった。また、意見考慮期間(募集締切りから政令等公布まで)が同23.6日と短い一方で、政令等の公布から今回の公示までが同602.6日と異常に長く、放置していたことがはっきりした。

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経産省は改善進まず

 25件の府省別では、厚生労働省が11件と一番多く、国土交通省7件、内閣府3件など。記事化に向けて取材を続けていたところ、厚労省は2月6日、「意見公募結果の公示状況及び今後の取組について」と題するプレスリリースを報道関係者に発表した。この中で、「公布から相当期間経過しているにもかかわらず、結果の公示を行っていない不適切な事例が見られました」と述べ、不手際を認めた。そして是正に向けて、「公示が適正に行われているかどうかのチェックを行い、適正な運用を図る」ことを明言した。しかし発表資料は、行政手続法違反との認識が不足している。

 2月に入っても、長期に放置された事案の結果公示が増えており、1月から2月15日までに、政令等の公布から1年以上遅れての公示が計35件(うち2年以上8件)となった。最長は農林水産省(水産庁)の「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」で、公布から951日の遅れだった。

 しかし、2月15日現在、「意見公募の締切り」から1年以上公示されていない事案が、なお50件残っている。府省別では経済産業省が17件と一番多く、環境省16件(うち15件は同省HPで公示ずみ)などとなっている。

(了)

 

(注)パブリックコメントと行政手続法
(注)パブリックコメントと行政手続法 パブリックコメントは、1999年に閣議決定された「規制の設定および改廃に係る意見提出手続き」の一般的な呼び名だ。当時は任意の意見募集だったが、2006年4月から改正行政手続法が施行され、正式に「意見公募手続」が法制化された。行政手続法第43条によると、意見公募を実施して政令、省令などを定めた場合は、政令等の公布と「同時期」に、▽政令等の題名▽意見公募の案の公示日▽提出意見▽提出意見を考慮した結果――などを公示する必要がある。(了)

 

参考資料

指摘を受けて2009年1月に結果公示された長期遅延事例32件:■MS-Excel(104KB)

2008年に結果が公示された事案一覧:■MS-Excel(1.6MB)

厚生労働省が2月6日に公表したプレスリリース:■PDF(28KB)

パブリックコメントに関する厚生労働省の通知書(2/6付):■PDF(75KB)

 

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※この記事は08年J-School後期授業「調査報道の方法」(瀬川至朗先生)での学生による調査活動をもとに構成されています。