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意見公募制度、経産省が31件の行政手続法違反

結果公示で最長3年以上の遅れ、昨年2月に問題化した後も放置

パブリックコメント(意見公募手続)の制度で、経済産業省など4府省が、公募結果の公示を半年以上怠る行政手続法違反をしていたことが、J-School取材班の調査で分かった。違反事例34件のうち31件は経産省で、結果公示が3年以上(1,258日)遅れる長期事例もあった。意見公募手続の問題は、2009年2月、取材班が「Spork!」で報道し、管轄する総務省が各府省に注意を促していた。経産省などは、今年3月初め、取材班の記者(院生)が問い合わせた後に相次いで結果を公示しており、昨年の発覚後も違反事例を放置していた実態が見えてきた。

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  2009年2月に院生が違反事例を指摘 

意見公募の流れ

  市民の行政参加の手段であるパブリックコメント(意見公募手続)の実態を知るため、取材班は2009年2月、各府省に対し、結果公示の出ていない事例を中心に取材を進めた。そして、厚生労働省など7府省で行政手続法違反があり、最長で結果公示が951日遅れた事例があることを明らかにした。院生調査の結果として、朝日新聞、共同通信でも報道された。

  今回は、「結果の公示がされないケースは解消されたのか」、「チェック体制は機能しているのか」という問題意識のもと、意見公募制度の運用の実態を調査、分析した。

  行政手続法によれば、政府の行政機関が政令、省令、指針などを定める際には、事前に案や資料を示して国民から意見を公募し、その意見や考慮した結果については、政令などの「公布」とほぼ同時に「結果公示」をする必要がある。しかし、なかなか結果の公示がなされない場合、政令などが公布されたかどうかを別途知ることは難しいため、意見公募からかなりの時間が経過していても違反かどうか分からないケースが多い。

 

疑問事案49件を再調査

  取材班の記者は、2010年3月、公募後1年以上、結果公示がされていない」49件(経産26、厚労7、農水7、国交5、環境3、財務1)の事案について、各府省に問い合わせた。その結果、3月9日~19日の間に、問い合わせた案件以外も含め、多数の問題事案の結果が公示された。

 

「半年以上の結果公示遅れ」 4府省で34件

 「ほぼ同時」については明確な規定はなく、取材班は、「公布」から「結果公示」の期間が半年以上ある事案を「明らかな行政手続法違反」とみなして分析。そうした違反事案が34件あることがわかった=内訳は上記のグラフを参照=。府省別では、経産省が31件と全体の9割以上を占め、あとは財務省、国交省、環境省が1件ずつだった。他の府省は、数か月遅れのケースはあるが、半年もの長い間、公示を怠るということはなかった。

  そのうち「2年以上」遅れの事案が17件と半数だった。2009年1~2月の取材では違反事例33件中6件(18%)が「2年以上」だったので、違反度合いは昨年以上に深刻だ。34件のうち、29件(85%)が「提出意見ゼロ」だった。 

  34件のうち27件は、2009年2月、違反事例の発覚に対応した総務省が「遅れないように」とする注意喚起の通知を各府省に出し、国会でも取り上げられたころ、すでに政令等の公布からある程度の期間が過ぎ、違法が疑われる状態にあった。「2年以上」遅れの17件を所管する経産省と財務省には、昨年1月にも長い間公示されていないことを指摘していた。しかし、その多くは放置されたままだった。

  34件のうち最長の遅れは、経産省の「使用済み自動車の再資源化関係の意見募集」。省令公布の1258日後に結果を公示した。

  「半年以上1年未満」遅れの6件は、総務省が2009年2月に注意喚起の文書を出した直後、あるいはその数か月後に命令等が公布された。しかし、改善は図られなかった。6件のうち5件は提出意見がゼロだった。

昨年最多の厚労省は改善傾向

  また、34件の中には、行政手続法で原則30日以上とされている募集期間を、特例で11日に短縮しながら、政令等の公布の後2年半以上も結果の公示を怠っていたケースがあった(経産省)。ほかにも、募集期間を短縮しながら、1年以上公示を怠っていたものがあった(国交省と経産省)。

  一方、2009年2月の時点では、最も違反事例の多かった厚労省は、指摘を受けて不適正事例があったことをプレスリリースで認めた上で、「公示が適正に行われているかどうかのチェックを行い、適正な運用を徹底する」こととした。具体的には、政令などの公布の段階でチェックし、大臣官房総務課の意見公募担当者が毎日、電子政府の総合窓口(e-Gov)で公示状況をチェックしているという。昨年3月以降は、公布から結果公示まで半年以上かかったケースは1件もなかった。

 

(注1)パブリックコメントと行政手続法
パブリックコメントは、1999年から閣議決定に基づき、規制の設定又は改廃に係るものについて実施されていたが、2006年4月からは、行政手続法に基づいた意見公募手続とされ、政府の行政機関が政令、省令、規則、審査基準、指針などを定める際は事前に案や資料を示して国民の意見を公募するよう、義務づけられている。 
(注2)「政令等の公布」と「結果の公示」の時期
行政手続法43条は、提出意見やそれを考慮した結果などを、政令等の公布と「同時期」に公示する必要があるとしている。「同時期」とは、「公布と同時(同日)か、提出意見の多寡やその内容等の個別の事情にかんがみ、合理性の認められる範囲内でその前後」、「国民の誤解を生じさせないよう、速やかに行わなければならない(公示する事項を作成・整理し終えるまでの作業期間として合理的説明のできる期間後)」とされている。
(注3)「Spork!」創刊号「意見公募制度 7府省が行政手続法違反」の記事(2009年2月)
2009年1月上旬、取材班は、今回と同様、「意見を締め切った後1年以上公示されていない」パブリックコメントについて、結果の公示がなされていないことの確認を関係府省に求めた。2月15日までの1カ月半の間に、政令等の公布から1年以上経過した違法事案33件の結果の公示が行われた。最長は951日の遅れだった。違反事例が多かった厚生労働省は、2月6日、不適切な事案を認めるプレスリリースを公表した

ジャーナリズムスクール Spork 記事 2009年2月
意見公募制度 7府省が行政手続法違反

厚生労働省 報道発表資料 2009年2月
行政政手続法に基づく意見公募(パブリックコメント)結果の公示状況及び今後の取組について 
(注4)2010年3月に「意見を締め切った後1年以上公示されていない」と指摘した49件の内訳
経産省26件、厚労省7件、農水省7件、国交省5件、環境省3件、財務省1件。このうち、経産省26件、国交省3件、財務省1件、環境省1件の計31件は、3月19日までに結果が公示された。未公示18件のうち7件(農水省4、厚労省3)は、募集締切から2年以上が経過している。 
参考データ

2010年3月中旬に判明した半年以上の行政手続法違反34件 エクセルデータ
募集締切から1年以上未公示の49件 エクセルデータ

「政令等公布」から「結果の公示」までにかかった期間(2008~2009年)PDFファイル

「募集締切からの期間」と「その中の行政手続法違反等の割合」との関係 PDFファイル

2009年結果公示一覧表 エクセルファイル
2008年結果公示一覧表 エクセルファイル 
未公示案件の調べ方PDFファイル
 

 

※この記事は09年J-School後期授業「調査報道の方法」(瀬川至朗先生)での学生による調査活動をもとに構成されています。

 

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