原田謙介さん

若者への主権者教育に取り組むNPO法人代表理事・原田謙介さん

 選挙権が18歳に引き下げられてから2年半がたった。若者の政治離れや投票率の低下が改めて問題視され、教育現場では政治に主体的に参加できるよう主権者教育も始まっている。若者と政治を近づけようとNPO法人「YouthCreate(ユースクリエイト)」(東京都中野区)を立ち上げた原田謙介代表理事(32)は「次の世代に負担を先送りにしていく政治ではダメだ」と、若者たちに政治参加を呼びかけている。

(トップの写真:NPO法人「YouthCreate」の原田謙介さん。総務省主催の18歳選挙権のイベントにも関わった=2018年5月23日、東京都中野区、河合遼撮影)

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 「少しでも今度の区長選の投票に行く人を増したい。立候補者同士の政策の違いがみなさんに伝わる場にしたい」

 2018年5月28日、中野駅北口駅前広場の特設屋外ステージで行われた中野区長選公開討論会の冒頭。コーディネーターを務めた原田さんは、駅前広場を埋めた区民に訴えた。

 中野に住み始めて7年目。活動の拠点を置くことで、知人も増え、街への思い入れもある。これまで何度もこうした討論会のコーディネーターをしてきたが、今回が一番緊張したという。前回の中野区長選の投票率は30%。討論会の最後でも呼びかけた。「区民の皆さん。 (討論会では)こんな話をしたんだよ。今回の区長選はこんな選挙なんだよと(周りの人に)広げてほしい」

 岡山県出身。歴史が好きで司馬遼太郎の本を中学生までに全て読んだ。歴史上の偉人みたいに、かっこよくなりたい。政治の現場なら偉人みたいになれるのではと考え、政治に興味を持った。

 2006年に東京大学に進学。実際の政治の現場を学ぶために、当時、民主党で参院議員だった江田五月氏の元でインターンシップを始めた。すると、政治の現場に若い人がいないことに違和感を覚えた。政治家や秘書に陳情に来るのは年配の人がほとんど。「若い人がもっと政治に声を伝えていかなくてはならない」

 大学3年生の時、若者の投票率を向上させるために学生団体「iVote」を立ち上げた。居酒屋に国会議員と大学生を集め、語り合ってもらった。予想外に人は集まったが、学生からは「自民党」や「参議院」の言葉の意味を尋ねるような初歩的な質問も相次いだ。「若者と政治」の繋がりが弱いことに気がつき、卒業後は就職せずに、自身で現在のNPO法人「YouthCreate」を設立した。

 最初は、イベントになかなか人が集まらず、アルバイトをしながら活動していた。しかし、2015年に公職選挙法が改正され、18歳への選挙権の引き下げが決まったことで、活動の幅が広がり、収入面でも安定した。

 2016年の参議院議員選挙に向けて、教育現場では、主権者教育が大きな課題となった。高校生向けの主権者教育の副教材「私たちが拓く日本の未来」の作成に携わった。目黒区の選挙管理委員会と都立駒場高校で出前授業を始めたことをきっかけに、各地で授業も行った。選挙の仕組みを教えるだけでなく、架空の選挙公報を使って模擬選挙を行うなど、2015年から2017年度末までに、延べ86の学校で、約2万人の生徒に講義した。ある授業後のアンケートでは、「政治を身近に思う」と答えた割合は40%から75%に上昇した。今年度も各地で実施していく予定だ。

 「次の世代の負担を減らすために何ができるのか」。これが活動のモチベーションだという。もし、自身に今後、子供が生まれたら、「お父さんは頑張って(次の世代に負担を先送りしていくことに)抵抗したんだよ」と伝えたい。
 今後は、活動を次の世代にバトンタッチできるようにすることが課題だ。昨年度の収支は赤字。収益の改善や教育以外での活動の広がりが必要だという。

<記事の情報は、2018年8月の取材時点のものです>

この記事は2018年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。

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