子供達に「第3の居場所」を提供したい
様々な生きづらさを抱えた子供達に家庭や学校以外の居場所を提供するNPO法人、ハーフタイム(東京都葛飾区、石原啓子理事長)。2010年に当時、早稲田大学在学中だった三枝功侍さん(30)が立ちあげた。心を閉ざしがちな子供達に寄り添い続け、「クサさん」の愛称で親しまれている。子供達が自分たちの居場所を見つけ、同団体を必要としなくなる日まで、「いま彼らが求めること、自分が出来ることをしたい」と話す。
(トップの写真:子供達にとってお兄さん的存在の三枝功侍さん=2018年6月13日、東京都葛飾区金町、ハーフタイムのたまり場、金安如依撮影)
平日の午後6時、葛飾区金町の公共施設内で、支援活動の拠点である「たまり場」が開かれていた。この日は中高生8人、学生を含めたスタッフ5人が集まった。黙々とゲームをする子、はしゃぎ回る子。三枝さんは高校生から恋の相談を受けている。
ハーフタイムは、貧困、虐待、いじめ、障害、非行、引きこもり、不登校等の事情を持つ子供を対象に、区内の金町、立石、高砂を拠点として支援活動を展開している。
子供達がふらっと集まれる居場所を作り、学習支援や月に2回ほどの遠足といったレクリエーションを企画する。運動会の応援に行くこともあれば、SOSを受けて深夜に駆け付けることもある。
振り返れば、小学生の時、14歳の少年が逮捕された神戸連続児童殺傷事件が起き、人の二面性に衝撃を受けた。中学時代、「悪ぶっている子と付き合っちゃ駄目」と言う先生に反発を感じたこともあった。少年非行にぼんやりと関心を抱きながら法学部に進学。法曹界に入り更生保護に携わる道を意識し始めた。
保護観察を受ける子供らの話し相手となり、勉強を教えるボランティア団体に加入した。担当した少年とは1年以上、体当たりで思いをぶつけ合った。泣きながら喧嘩したある日、「俺には俺の人生があるんだよ!」と少年に言われ、ハッとした。
「このまま裁判官になっても、自分の価値観で物事を見てしまう。もっといろんなことを知ってからの方がいいかも」。進む道を見つめ直した瞬間だった。
08年、ボランティア活動で知り合った人から「子供達への支援を拡充したい」と相談を受け、09年、月に1回ほどの活動を始める。10年1月に任意団体としてハーフタイムを設立。17年4月からはNPO法人に。
受け止め続ける大切さ
この春、中学生になった女の子は2年前から通い始めた。パジャマ姿で来たり、髪が伸び放題だったりしたことも。小学校入学早々に不登校となり、名前すら漢字で書けずにいた。中学生活はどうなるのか。学校関係者らと協力し彼女の新生活に向けて準備を進めた。
入学式が迫る中、「私服でも制服でもいいから、いつものようにたまり場に来て、そこから一緒に式に行ってもいいよ」と彼女に伝えた。彼女は「学校はどうでもいい」という。前日になっても、どうするか決まらずにいた。
当日、式の開始時刻に合わせて、通常より早くから彼女をたまり場で待つが、なかなか来ない。すると、彼女は髪をバッサリと切り、制服姿でやってきた。遅れはしたが式にも参加した。彼女の変化に驚きと嬉しさで言葉が出なかった。
これまでに継続的支援を行った子供は約60人。中には問題行動に走る子もいる。「子供達は言われなくても駄目なことは分かっているけれど、他に心を紛らわせるものがないのです。満たされるものがあれば、問題行動は自然となくなるのではないでしょうか」。模索が続く。
活動は社会的にも着実に評価されている。内閣府の子供の未来応援基金には16年から2回連続で採択された。また、東京都教育委員会が制作した17年度の人権教育DVDで活動が紹介された。
現在、大学院に籍を置くが休学中。同世代の学友と比べれば収入も不安定な生活が続く。だが、「目の前に苦しんでいる子がいて、その子が必要としてくれるなら、寄り添っていたい」という。空いた時間も子供達が好きなゲームをチェックし、距離を縮める足掛かりに。
「子供達からSOSがあれば、いつでもどこへでも飛んでいきたい。それができる団体でありたいのです」
この記事は2018年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。
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