世界とスクラム、日本の新薬開発

 新薬開発は時間との戦いでもある。とりわけ、抗がん剤開発は長期に及び、また開発費用も数百億とも言われるほど膨大で、迅速な開発が望まれる。10月3日〜5日に横浜市で開催された第66回日本癌学会学術総会では「新薬開発における国際化·迅速化」と題するシンポジウムが行われた。その席上、欧米と比べて承認までの時間が長く治験環境でも劣る日本に、良質で安価な薬を提供していくための迅速な体制づくりが求める意見が相次いだ。

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 日本人の死亡原因第一位である「がん」。いま抗がん剤の分野では分子標的治療薬や抗体治療薬などが登場し、がん抑制に向けた薬剤の進歩は目を見張るものがある。しかし国内外の製薬メーカーの競争は熾烈を極め、開発研究は容易ではない。さらに、新薬が晴れて世に出るためには、国の定めた「治験」を実施した上で厚生労働省に認可申請を行い、承認を受ける必要がある。新薬開発の迅速化のため、各国が協力してデータを出し合う「国際共同治験」が有効な手段として注目され、癌学会のシンポでも議論になった。  

 国際共同治験について、シンポジストの一人で我が国における国際共同治験推進役である岩崎甫氏(グラクソ·スミスクライン開発本部長)に説明してもらった。  

 「治験」とは、動物を使った試験などの基礎研究で認められた新薬候補を患者さんなどの協力の下で実際に人間に投与し効果や安全性を調べる臨床試験のことだ。第1相(臨床薬理試験)、第2相(探索的試験)、第3相(検証試験)の3段階に分かれ、最終の第3相試験では、それまでの薬との比較などを行う大規模な試験となることが多い。ただし、患者も年齢、性別、病気の進行具合などが様々であり、均質な患者集団を対象に国内だけで試験を実施することはなかなか難しい。薬効を科学的に証明するためにはデータの質だけでなく量も重要である。そこで、均質な患者集めを世界中に求め、各国で分担してデータを集積しようというのが国際共同治験である。  

 日本もそれに参加すべきだ。この点について異論はない。しかし岩崎氏は、参加への障害として日本独特の治験環境を問題視する。医師に対するインセンティブの少なさや実施機関の未整備など、大きく出遅れている。欧米に比べ「遅い」といわれる治験体制を改善する必要がある。早い段階から海外の治験に参加し、データを収集し、審査期間を短縮していくことで、我が国の新薬開発は国際競争力をつけていくべきだと岩崎氏は主張する。  

 文部科学、厚生労働、経済産業の3省は2007年4月、革新的な医薬品や医療機器を創出するための5カ年計画を共同で策定した。拠点となる医療機関の整備や人材育成、国民への普及啓発活動などを実施するとともに、国際共同治験の推進を目指している。こうした産官学共同の取り組みが今後大きく期待される。

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