理化学研究所が遺伝子情報の編集を阻害する物質発見

抗がん活性を持つある種の物質が、遺伝子情報から必要部分を切り出して編集する「スプライシング」の機能を阻害することで、がん細胞を死滅させていることを、理化学研究所の吉田稔主任研究員らが突き止めた。スプライシングを阻害する抗がん活性物質はこれまでに知られておらず、これまでとは全く違う抗がん剤の効率的な開発が期待できる。10月3日、横浜市で開催中の第66回日本癌学会学術総会で発表した。

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研究内容について語る理化学研究所の吉田稔主任研究員=撮影・中根圭一


 抗がん剤や抗がん活性物質には、体内のがん細胞の増殖を抑える働きがある。がん細胞を殺すメカニズムが解明されたり、がんの原因となるたんぱく質を特定できたりすれば、新規抗がん剤を効率よく開発することが可能になる。  

 吉田さんらは、天然の抗がん活性物質を改良した「スプライソスタチンA」という安定した抗がん活性物質を使って実験した。細胞内でスプライソスタチンAと結合する分子を調べたところ、同物質が標的とする分子は、遺伝子のスプライシングに欠かせないたんぱく質複合体の「SF3b」であることが分かった。  

 実際にスプライソスタチンAでSF3bを阻害したところ、スプライシングが正しく行なわれず、異常なたんぱく質ができることを確認した。  

 また、エーザイの水井佳治主幹研究員らのグループは、標的分子のSF3bを別の抗がん剤で阻害する動物実験を実施し、がん細胞を死滅させたことを同日、発表した。2つの研究グループがそれぞれ独自に同じような成果を上げたことで、スプライシング機能が、がん治療に有望な標的になることが示された。 吉田さんはこうした成果について「莫大な時間と金がかかる新規抗がん剤開発への近道になるだろう」と述べる。  

 ただし、抗がん活性物質スプライソスタチンAによる阻害で、正常な遺伝子情報の編集ができなくなるため、同物質の副作用が心配される。スプライソスタチンAの安全性について吉田さんは「スプライシングは(細胞内の)一部ではきちんと行なわれており、生命機能を維持するだけの正常なたんぱく質はできている」と指摘している。

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