抗がん剤開発の遅れ、制度改善へ—産官学連携

 日本の新薬開発の体制は、欧米はもとより、や他のアジア諸国に比べても遅れが云われており、現状を打開するため、新薬開発の国際化に向けた産官学の連携が本格化している。十月初めに横浜市で開かれた第六十六回日本癌学会学術総会では、抗がん剤の開発体制をテーマに、専門家によるシンポジウムが行われた。産官学の連携は、新薬開発の追い風となるだろうか。

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 近年、世界各国で抗がん剤をはじめとした新薬の開発が活発になされており、がん治療の向上や副作用の軽減など臨床効果の高い薬が多く生み出されている。一方で、ヒトを対象とする日本の臨床研究はいまだ発展途上にある。国内外の製薬会社が、臨床試験の第一段階の治験を日本以外で行うなど、日本の臨床試験は他国の完全な「後追い」だ。加えて国内での新薬開発に対する意識も低い。  

 日本の新薬開発に対する遅れはどこからくるのか。「そもそも日本の基礎研究の水準は決して低くないんです」。 英国の製薬企業、グラクソ・スミスクライン取締役開発本部長の岩崎甫氏はこう述べる。「むしろ各国にひけをとらない良い研究がたくさんある。実際に日本が作り出した薬剤も少なくない。ただ、それを実用化しようとすると日本では途端に難しくなる」。  

 岩崎氏は、日本癌学会にシンポジストとして参加し、日本独特の開発環境の難しさを指摘した。  

 他国に比べて薬の審査の時間が長く、開発の費用も高い。自然に開発コストが高くなり、新薬開発に対し消極的になっているのだろうと言う。「このままいけば日本は各国から相手にされなくなる」。  

 国や企業も無策ではない。すでに文部科学省と厚生労働省が今年三月、「新たな治験活性化計画五カ年計画」を発表しており、経済産業省もこれに加わり支援を行う。企業側も大学や病院と協同しての先進的な研究を行う方針だ。  

 だが、新薬開発のスピード化を求めることは一方で安全性を損なうことになる。「日本は開発を始める時期の海外とのズレもあってそうした安全性を考慮しても圧倒的に遅い。しかも遅い=安全というわけでは決してない。私たちの研究では、“絶対に”大丈夫というものがないわけですから。だからこそ開発した薬が市場に出回るようになってからも研究を続けていくんです」。  

 そして最後に「今までに日本で行われた治験は先に海外で実施された後に行われたものがほとんど。いわば海外の犠牲の上に成り立っているようなものです。世界各国と協調した治験制度を整備していくとなれば、日本もこれからは覚悟をしていかなければならないでしょう」。  

 世界と足並みを揃えるため、産官学の足並みをどのように揃えるか—長期にわたる薬剤開発への新しい取り組みはまだ始まったばかりだ。

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