東京医科歯科大、がん抑制遺伝子の新機能を発見

乳がんのがん抑制遺伝子として知られるBRCA遺伝子の新機能を発見したと、東京医科歯科大の三木義男教授が、10月3日〜5日に開催された第66回日本癌学会学術総会で発表した。BRCA遺伝子が、家族の中で乳がんが多発する「家族性乳がん」だけでなく、広く乳がん全体の発生に関わっている可能性が示唆されるという。

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乳がんのがん抑制遺伝子の新機能を発見した東京医科歯科大・三木義男教授 BRCA遺伝子には「BRCA1」と「BRCA2」の2つがある。これらの遺伝子に異常があると、家族の中で乳がんが多発する「家族性乳がん」になりやすいことが分かっていた。BRCA遺伝子に異常が認められた場合、5〜8割が乳がんに、1〜3割が卵巣がんになるとされている。  

 三木教授らは今回、細胞分裂の際に重要な仕事をする細胞内小器官の「中心体」などの分裂を、BRCA遺伝子が制御していることを突き止めた。BRCA遺伝子に異常があるとこの制御機能が正常に作用せず、乳がん発生の原因となる。このメカニズムの解明から、BRCA遺伝子の異常が、家族性乳がんだけでなく、一般的な乳がんの発生にも関与する可能性が示唆されるという。 がん関連遺伝子の機能から乳がん発生のメカニズムを探っていけば、新しい診断、治療、薬の開発に役立つと三木教授は語る。「メカニズムを解明してまずやるべきことは、今ある治療法の中でより何がいいのかという選択や予測をすることです。いずれはメカニズムに基づいた新しい治療薬の開発に結びつけたい」。  しかし、こうした分野の研究も大きな課題を抱えている。  

 三木教授によると、患者らを対象とするBRCAの臨床研究は、米国では8074例あるが、日本ではまだ135例と少ない。「遺伝」というものに対する日本人の抵抗感が、数字の違いの根底にある。少しでも臨床研究を増やそうと、三木教授らは2005年に新聞広告で遺伝子検査のボランティアの募集を試みた。200〜300人の応募を期待したが、診断基準に合致し、遺伝子検査を実施できたのは20人だった。検査と同時に実施する遺伝カウンセリングが受けられる病院への通院も制約条件となった。  

 遺伝子診断そのものにも課題がある。BRCA遺伝子の診断で調べるのはDNAのうち5〜10%。仮に異常が見つからなくても家族性乳がんではないとは言い切れない。一方、異常が見つかっても治療に生かすことができなければ、患者に不安を与えるだけになりうる。 

 それでも三木教授は「日本人の間でも、少しずつ遺伝に対する理解が広まりつつある。日本人での研究例が増えれば、米国で行われている予防的切除など新たな治療に踏み出す可能性につながる。」と研究の重要性を指摘する。  

 食事の欧米化や第一子の出産年齢の上昇などから、日本の乳がんの罹患率、死亡率はともに上昇傾向にある。乳がん治療の今後の発展に期待したい。

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