深刻化する産婦人科医不足

 医師の“産婦人科離れ”が深刻化している。産婦人科医は1994年から2004年のあいだで8.6%減少した(日本産科婦人科学会調べ)。日本産科婦人科学会に参加した産婦人科医のA医師は、匿名を条件に「産婦人科医の過酷な勤務事情」を生々しく打ち明けた。

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二倍働いても給料変わらず

 「このままではやっていられない」。A医師は、長年勤務してきた総合病院での職に見切りをつけ、開業医になる決意を固めた。勤務していた病院が、時間外勤務手当のカットを決定。労働の対価が得られなくなったと感じたのだ。 「真夜中にお産があれば病院へ駆けつけます。でも、手当が無くなったのでただ働き。タクシーも自腹です。そして朝になれば、また所定時間の勤務が始まります」  

 A医師によれば労働待遇の劣悪化は、勤務先だった病院だけでなく、総合病院の産婦人科全体の傾向だ。厚生労働省が決定した今年度の診療報酬改定ではマイナス3.16%の大幅減。病院側は勤務医への報酬を減らすため、これまで支払ってきた時間外勤務手当などの手当をカットし始めた。24時間体制でお産に当たらなければならない産婦人科医にとっては、深刻なしわ寄せとなる。 「急患のない皮膚科や眼科は朝9時から夕方6時まで病院にいるだけでいい。一方産婦人科は、いつお産があるかわからない。24時間体制です。他科の医師の二倍も働きながら給料は同じとなれば、やっていられない、となるのも当然でしょう」(A医師)  

 産婦人科勤務医が減少すれば、一人あたりの労働負担は増え、医療事故のリスクも増す。医療クレームのうち、産婦人科に関するものは4割を占めているというデータもある。2004年に福島県の県立病院で、29歳の女性が帝王切開中に失血死した事故では、今年になり執刀医が検察に逮捕・起訴されている。 「五体満足に生まれることが当たり前の風潮のなかで、なにかの理由でお産がうまくいかないとなると、弱者救済の風潮もあって、すべては医師の責任とされてしまいます。若い医師は、訴訟を起こされる危険な職業に就こうなんてしませんよ」(A医師)  

 日本産科婦人科学会は今年4月の学会で、中間報告として産婦人科医療の安定提供のための提言を出した。少子化対策の足下を救いかねない医師の“産婦人科離れ”は、ようやく対策が検討され始めたところだ。

追記  
 A医師から後日、再度、コメントを聞くことができた。 「医療トラブルに関してマスコミがあたかも医療事故のように報道するため、読者が誤解を多く持っています。裁判の結果、何らミスがないことも多くあるのですから。すべてにわたり結果責任を追及されると、保身的な医療しかできなくなります」  昨年に横浜の病院で医師か助産師にしか資格のない内診を看護士に行わせていたことが発覚している。A医師は、この「内診問題」の存在も、医師の“産婦人科離れ”の一因としてあるのではと指摘する。 「医者は神様ではないので、全力を尽くしてもどうすることもできないことがあります」  医者という職業を、報道はどのように伝え、市民はどのように捉えるか。“産婦人科離れ”には、さらに輪をかけた大きな問題が横たわっている。

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