産婦人科医の減少

 産婦人科医の減少が止まらない。厚生労働省の調査によると1994年から2004年の10年間で医師の総数は3万6千人増え、26万人近くに上る。しかし、産婦人科医はその10年で876人減って7.9%マイナス。02年から04年の2年間には455人減少している。医療現場で何が起きているのか。4月下旬に横浜市で開催された日本産科婦人科学会の会場で、現役の産婦人科医に聞いた。

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産婦人科の危機

 勤務医から開業医への転身を決意した西田茂医師(仮名)は報酬と労働時間の悪化を訴える。少子高齢化に伴い診療報酬は減少傾向にある。06年度の改正で医療費の総額は3.16%減で、過去最大の下げ幅となった。

 「医療費が下がれば、病院の利益も下がる。患者は急に増やせないから、病院が利益を守る手っ取り早い方法は職員の給料が下げること」と言う。この方針で最も痛手を被るのが産婦人科医だ。西田医師が勤めていた私立病院では医師の時間外手当がカットされた。お産は時間を選ばない。そのため、産婦人科医は他科と比べ時間外労働が多い。厚労省の06年の調査によると、常勤医の平均勤務時間は外科で週66.1時間、小児科で68.4時間。産婦人科は週69.3時間で最も長かった。「他の診療科より多く働いて給料が変わらないのではやってられない」と西田医師は苦りきって言った。  

 また医療訴訟も産婦人科医を悩ませる問題だ。最高裁判所の調査によると医療訴訟は近年増加し続け、04年には1000件を突破。その13%ほどが産婦人科関連の訴訟だという。医療訴訟が増えている背景に、東北地方の基幹病院に勤める仲田秀夫医師(仮名)は医療現場に対する世間の見方が変わったことを挙げる。「何か不具合があると、全て医療側が悪かったと見られる」傾向がある。「手術前にいくら細かく説明しても必ず穴はある。何かあるとそこをマスコミに叩かれる」。マスメディアの報道が医療訴訟の呼び水になっていると批判する医師もいた。  

 こうした状況下で04年度から始まった新しい医師臨床研修制度が若手医師の産婦人科離れに拍車をかける可能性があると西田医師は考えている。旧制度では、新卒医師の約4割は一つの診療科しか研修を受けず、他の科の実態を知る機会は少なかった。そのため「騙されて」産婦人科に入った医師も少なくないという。新制度では、内科、外科、救急部門に加え、産婦人科など5科が必修だ。「夜中も呼ばれ、寝ずに働いて、外来もして。こんなことを一生続けることはできないでしょう」と西田医師。産婦人科を敬遠する若手医師が今後増えるのではと危機感を抱いている。

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