精液中のHIVを完全除去

 HIV(エイズウイルス)を完全に除去した精子を用いて体外受精をする方法が開発・実用化されている。2006年4月22日の日本産科婦人科学会で、開発者の花房秀次・荻窪病院血液科部長が、HIV除去技術の現状と安全性について発表した。

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技術進む、エイズ患者の体外受精法

 HIVに感染した男性が女性と性交渉すると、女性に感染させたり、さらにその女性から生まれる子供に感染させたりする恐れがある。

 花房部長らが慶応大学医学部などと共同で開発した方法では、まず、精液を「パーコール」という無害な液体に浮かべて遠心分離にかけ、比重の軽いHIVウイルスと比重の重い精子とをより分ける。ウイルスは上層に集まるため、最下層に沈んだ精子にはHIVが混じっていない。最下層から取り出した精子のうち、スイムアップ(浮遊)してきた運動性のよい精子だけを回収する。回収した精子の半分を、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という方法にかけて調べる遺伝子の量を増やしてからチェックし、HIVが検出されないことを確認した上で、残り半分の精液を女性の卵子と体外受精させる。 これまでの精液中HIVの除去技術では、HIVのRNA(*1)やDNA(*2)が精液に残ってしまい、女性や、女性を介して子どもへ感染させる危険があった。今回、パーコールとスイムアップという二重の“フィルタ”を通すことにより「HIVを完全に除去した精子」(花房部長)を取り出すことができるようになったという。  

 ただしこの方法は現在、新潟大、慶應大、杏林大が利用しているにとどまる。安全性が医学界にまだ浸透していないことや、医師の相当な技術が必要とされることなどが理由だ。 4月現在、血友病や性感染でHIVに感染した患者100組が花房部長らの開発した方法を使って体外受精を希望しており、これまでに36名の女性が妊娠、22名が出産した。また5名が妊娠中だ。体外受精の費用は自費診療のため、1回の試みで、慶応大で約90万円、新潟大では20〜30万円が必要となる。 花房部長は、子の誕生を望む患者に対して「100%安全な方法を望む方もいれば、100%安全でなくても医療費を抑えられる方法を望む方もいるだろう。どの方法にどれだけのリスクがあるのかをよく知ったうえで、最適の方法を選択してほしい」と話す。

(*1)RNA…リボ核酸。タンパク質をつくるなどする。 (*2)DNA…デオキシリボ核酸。遺伝子の情報を保存したり、複製したりする。

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