正確に伝えることの重要性

 報道は、さまざまな面で大きな影響力を持ち、私達の生活に必要不可欠なものだ。しかし、正確さを欠く報道は、マイナスの結果を招くことにもなりかねない。4月下旬に横浜市で開かれた日本産科婦人科学会に参加した荻窪病院の花房秀次・血液科部長は「社会部記者が報じた不十分な記事」の実例を挙げ、科学記者が書く正確な医療記事に対する期待を語った。

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新聞報道における誤謬

 花房医師らは2000年、慶応大学医学部などと共同で、精液の中からHIV(エイズウイルス)を完全に除去する方法を開発した。HIVに感染した男性でも、ウィルスを完全に除去した精子のみを取り出して体外受精させることで、母子に二次感染することなく、お産をさせることが可能となったのだ。 この研究成果は当時、新聞の一面記事で大々的に報道された。

 花房医師はその報道について次のように語る。「ある新聞社の後追い報道に技術面に関して伝えられていない記述があったのです。そのため、自分でもできると誤解した医師たちが正しい方法を知らないままHIV除去に取り組み、その結果、HIV感染者を出すという最悪の事態を招くことになってしまったのです」 科学部の記者であれば、HIV除去技術の仕組みについてもう少し詳細に報道した可能性が高い。

 しかし、指摘された記事は社会部の記者によって書かれたものだった。倫理的な視点や患者側の心理に焦点を当てていたが、肝心のHIV除去技術については不十分な記述となっていた。その結果、一部の医師らに誤解を与えてしまったようだ。 具体的には、2002年、ある大学病院のグループが、HIVが残った精液を用いた体外受精をしてしまい、妻がHIVに感染する事故があった。花房医師らの手法では、HIVが精液中に存在しないことを、遺伝子を増幅させるPCR法という診断技術で確認する必要があるのだが、このグループはHIV除去の確認作業をしていなかったという。 これは、軽率な医師に誤解を招いたことが不幸な結果につながった事例といえる。正確さと、いかに誤解を与えずに伝えるかということが報道に求められている。

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