2007年4月15日
取材・執筆・撮影:
HIV除去精子における議論
医療技術の進歩でHIV(エイズウイルス)感染者の長期生存が可能になる中、子どもを望む人も増えている。荻窪病院血液科の花房秀次部長は、慶応大学医学部などとの共同研究で、精液から完全にHIVを除去する方法を開発した。これによってHIVに感染した男性が、母子に二次感染させることなく、子どもをつくれるようになった。HIV除去の技術とその安全性をめぐる議論について、花房医師に話を聞いた。
2007年4月15日
取材・執筆・撮影:
医療技術の進歩でHIV(エイズウイルス)感染者の長期生存が可能になる中、子どもを望む人も増えている。荻窪病院血液科の花房秀次部長は、慶応大学医学部などとの共同研究で、精液から完全にHIVを除去する方法を開発した。これによってHIVに感染した男性が、母子に二次感染させることなく、子どもをつくれるようになった。HIV除去の技術とその安全性をめぐる議論について、花房医師に話を聞いた。
花房医師は、今年の日本産科婦人科学会で、HIV除去技術について講演した。 HIVは血液中だけでなく、精液中にも存在する。精液中でHIVは精漿中にいるだけでなく、白血球で増殖したり、精子の表面に付着している。この方法では、まず白血球などの成分と精子の比重の差を利用して、精子のみを取り出す。そのあと運動機能がよい精子を回収することで、HIVを完全に除去できることを証明した。花房医師らは、遺伝子を増幅させることでわずか1個のウイルスさえ見つけられる超高感度のPCR法(遺伝子診断法)を開発し、極微量のHIVの有無が判定できるようになった。精子を回収した後と受精を行った後の2段階でPCRを行い、精液からHIVが完全に除去されていることを確認した。 花房医師らのグループは、今まで50組のカップルにこの方法を試み、22組が出産に成功している。すべての母子に二次感染はなかった。
だが、日本にはHIV除去技術についてのガイドラインがない。2002年には、花房医師らとは異なる手法を用いた大学病院のグループが、HIV除去の確認を怠ったため、妻がHIVに感染する事故が起きた。100%の安全を求める医者がいる一方で、怠る医者もいる。患者は医師を慎重に選ばなければいけない。 世界的にみれば、HIVを完全に除去する必要があるのか、という議論が行われている。イタリアでは精液のHIV除去率が低くて完全に除去されていなくても人工受精を実施している。過去に1000例以上試みられ、母子に二次感染したという報告は1件もない。
しかし、日本では100%の安全を求める声が多い。その技術がなかった時代、医者は感染者に子どもを諦めさせていた。しかし、中には危険を覚悟で子どもをつくり、二次感染した夫婦もいる。 その人々の切実な思いに応えるため、100%安全な方法を追求した花房医師は、次のように語る。 「かつて一か八かで子どもをつくった夫婦に対して、我々は特攻隊を見るような気分だった。彼らのような思いはもうしてほしくない」