感染症に対する医師の認識

 国内におけるHIV(エイズウイルス)感染者は、2006年現在、推定で2万人を超すといわれる。実際の報告数よりもかなり多い。さまざまな場面でHIVの感染をいかに防ぐかが問われているが、精液からHIVを除去する技術を確立した荻窪病院の花房秀次・血液科部長は「多くの医師の感染症に対する認識の低さが大きな問題だ」と指摘する。

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医師は怠っていないか

 花房医師らは、慶応大学医学部などと共同で、HIVを100%除去できる技術を開発した。これにより、HIVに感染した男性の精液からHIVを完全に取り除いたうえで卵子と体外受精させることができるという。母親や生まれてくる子どもがHIVに感染する心配がなくなった。 しかし、国内のある大学病院では、不十分な除去技術を用いて体外受精を実施し、その結果、母親がHIVに感染してしまうケースがあった。感染防止に対する医師の意識の低さが問われる。  

 花房医師はまた、産婦人科医の多くが、感染症防止の自衛策をとっていないことに懸念を抱く。産婦人科医は、分娩の際に大量の血液を浴びることが少なくなく、ウイルスなどの感染の危険性が非常に高い。それにもかかわらず、感染症対策が最も遅れている診療分野の一つである。花房医師は、「HIVに限らずウイルス感染対策が不可欠であり、医師は、ウイルス感染に対する危機感を持ち、感染症対策をとってほしい。」と強調する。

求められるC型肝炎対策

 さらに花房医師は、C型肝炎の感染対策をとる医師が少ないことに危機感を覚える。我が国には輸血や医療行為などによってC型肝炎ウィルスに感染した人が200万人以上いると推測されており、とくにC型肝炎の感染対策には敏感でなければいけないからだ。また、HIV患者はC型肝炎が悪化して死に至るケースが多い。 さらに、C型肝炎の治療は、その過程で精子に大きな損傷を与える危険性が高いことがわかっている。C型肝炎の治療薬であるインターフェロンとリバビリンのうち、リバビリンで精子の奇形になる率が非常に高いのだ。中には無精子症になってしまう患者もいる。しかし、C型肝炎治療による無精子症について知らない医師もいる。無精子症になった後では、不妊治療も難しく、もう手遅れになってしまうケースもある。  

 感染対策についての医師の無関心さは、医師が、自らの裁量でどんな医療もおこなうことができてしまうという状況に問題があるのではないか。そうした状況を改善するため、花房医師は治療法や感染対策についてのガイドラインを設けることに賛成する。ガイドラインは医師の裁量権をしばるものだという反発も強いが、花房医師は、必要な感染症対策を普及させる効果があると指摘する。

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