2016年8月22日
取材・執筆・撮影:下地 達也
大岡山のバーを拠点に 東京と宮古島をつなぐ
東京都大田区の大岡山駅を出てすぐ右手に見えてくる大岡山北口商店街。居酒屋や喫茶店が軒を連ねる一角に、沖縄・宮古島の出身者らが集まるコミュニティーバー「タンディ・ガ・タンディ」がある。島の言葉で「ありがとう」を意味する店は、もとは常連客で島出身の宮国優子さん(45)が、2012年に宮古島に移住した前オーナーから譲り受けて営業している。宮国さんは「島の人はもちろん、いろんな人が議論や交流できる場所にしたい」と言う。
5月中旬の午後8時、オレンジ色の明かりがともる落ち着いた雰囲気の店内は、宮古島や鹿児島・奄美大島、地元の常連など10数人の客で満席だった。カウンターの後ろには、「菊之露(きくのつゆ)」や「多良川(たらがわ)」など島の泡盛が並ぶほか、島の新聞・宮古毎日新聞や、『宮古史伝』『みやこの歴史』など歴史書を中心に200冊以上の本が置かれている。
「宮古そばは、食べ方に独自性があると思う。麺の下に具を入れるところとか」「タンディ・ガ・タンディの『タンディ』は元々『頼む』『どうぞ』という様々な意味がある。島の人はお願いされたら断れないから、『頼む』と『ありがとう』が同じ言葉になったんじゃないかな」。沖縄の「オリオンビール」を片手に、島の文化や歴史についての語らいが続く。宮国さんは「バーと言うよりは部室。色々な人が自由に面白いことをやっている感じかな」と笑う。
宮国さんは宮古島の沖縄県立宮古高校を卒業後、アメリカに留学した。帰国後は時代劇制作会社や脚本家事務所を経て、1994年から宮古毎日新聞社で記者として取材に携わっている。現在は3人の子供を育てながら、法政大学沖縄文化研究所の研究員として島の文化を研究しつつ、店を拠点とした一般社団法人ATALASネットワークの理事として、島の文化を島の高校生に伝える活動や、島の著名人に関する文献研究などをしている。
2002年には宮古島の方言や独特の慣習をまとめた『読めば宮古』を出版。島の人に向けた宮古島の文化の本があまりなかったため、話題に。島内のある書店ではひと月に3千部以上売れたこともあり、現在も増刷が続いているという。
店では島出身の音楽家を招いたライブショーも開かれる。昼も島の文化のお話し会や近所の子どもに向けた英語の授業などが開かれ、島の出身者や研究者、近所の人などでいつもにぎわっている。「コミュニティーを作ろうっていうよりは、自分たちのところをどう面白くしようか考えるうちに、自然と人があつまるようになったんです」と宮国さん。
日本初のアニメ映画作家とされる下川凹天(へこてん)や、針衝(はじち)と呼ばれる女性の刺青文化など、島にはまだ知られていない魅力や文化が眠っている。こうした島の歴史・文化や情報をさらに発信してくため、宮国さんは近くウェブサイトを立ち上げる予定だ。「宮古島は面白いことがたくさんある宝の島。その面白さを伝えていきたい」と言う。
この記事は2016年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(林 恒樹講師)において作成しました。
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