千葉隆博さん

「ものを作るスキルがあれば生きていける」 石巻工房の千葉隆博さん

 「石巻工房」は、東日本大震災後の2011年6月に宮城県石巻市に設立された。被災地におけるものづくりの場として注目され、「ヤフー石巻復興ベース」の協力を得て広く外に情報発信をしている。石巻工房長を務める元寿司職人の千葉隆博さんにお話をうかがった。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 「ものを作るスキルがあれば生きていける」 石巻工房の千葉隆博さん
Share on Facebook
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip

   地元の産業で雇用が生まれるシステムを

−−−震災後に工房を立ち上げた理由を教えていただけませんか。

 じつは、石巻工房を最初に立ち上げたのは東京の芦沢啓治さんという建築家なんです。3月11日の津波は、私の寿司屋に2メートル50センチくらい来て店が駄目になった。ちょうどその時期に芦沢さんがここで活動を始めて、私が手伝ったことがきっかけで、工房長を務めさせてもらうことになりました。

石巻工房の製品

石巻工房の製品

 昔からの商店街は1階が商店、2階が住まい、という作りが多い。1階は津波でやられたけど2階は住めるということで、自宅の2階に住んでいた人が多かったんですね。それで、日曜大工のスキルがあれば、ドアの付け直しや鍵の取り付けは自分ででき、復旧も早いだろうと考えたがきっかけです。最初は復興バーという活動から始まり、米国の家具メーカーのハーマンミラーとの協力でベンチなどを作って売るようになり、さらにインターネット販売事業も始めたのです。 

    ヤフー石巻復興ベースと連携

−−−工房の一番の特徴は何ですか。

 活動の特徴は、うちで作る製品をお客様に買ってもらい復興支援にあてるということです。地元の人がお金を稼いでお金を回して経済を活性化させないと、復興にはならないわけですから。そう考えると地元に産業があって、それで雇用が生まれるというシステムがあればいいなあと思います。製品の特徴から言うと、屋外で使える家具のDIY(Do It Yourselfの略)製品をつくる世界初のメーカーという位置づけです。           

ヤフー石巻復興ベースには石巻工房製のソファーなどが展示されている=段文凝撮影

ヤフー石巻復興ベースには石巻工房製のソファーなどが展示されている=段文凝撮影

 別の特徴としては、ワークショップというのをやっています。家具を作るときに出る端材を利用して、すわれるものを作ろうというワークショップですよ。端材を使い、皆さんが自由に考えて、手を動かして物を作るんです。まず、こんなものが欲しいと紙に描いてみる。次は材料を見ます。どう組み合わせたらどんな風になるのか、考えるのです。そうすると、けっこう自分で考えて自分なりにやるんですよ。まずいところは手直しをしてあげて、そうすると「いいね」ってなります。今度は自分でホームセンターに行って作ってみようか、買ってみようか、こういうつながりが出てきます。

 「ヤフー石巻復興ベース」との連携では、復興ベースの事務所にショールームという形でうちの家具が展示されています。ヤフーネットでの注文もけっこう入って来ます。

−−−ボランティアの精神と営業の利益のバランスはどうやって取りますか。

 今は、普通に商売がメインです。ボランティアで助けてあげるのではなく、むしろボランティアで教えてあげるということです。やり方とか自分が持っている知識を、ワークショップを通じて、みんなに教えて、みんなに考えてもらうということですよ。 

    難しい人材の育成

−−−HPに書いている「人材の育成」という目的について。今はどれくらい実現できていますか。

石巻工房

石巻工房

 人材の育成は、なかなか難しいですね。まだやっぱり地元で働く人がいないですよ。ちょっと言えば石巻でミニバブルみたいな感じがします。なぜかと言うと、何でもかんでも被災地だということで、優遇される面がありますね。

 僕が目指しているのは、デザインによって問題を解決することなんです。つまり、ものづくりを通して皆さんに色々考えてもらいたいということです。例えば、災害があったから助けてくれるという話ではなく、被災したけど工夫して生きていこうぜというサバイバル能力が必要になってくるんじゃないですか。いわゆる生きるために必要なスキル、ものを作るために必要なスキルが重要だと思います。

−−−外部の人に発信したいことはなんでしょうか。

 一番発信したいことはベンチを買ってください(笑)。どんな状況があってもものを作るスキルがあれば生きていけるよという考えです。【2012年10月26日取材】

 

取材を終えて

公共の場を通じて地元の事業を活性化させ、地元の人材育成の一助になるという目的についてうかがいましたが、千葉さんが「石巻はミニバブル」と率直に語ってくれたことが興味深かったです。さらに、「石巻工房」の中心的な理念、つまり、ものづくりによって、人に考えさせて、生きるスキルを身につけさせる、というのはいかに意味深いことかと納得できました。(斉晗毓)

 石巻工房 HP
http://ishinomaki-lab.org/
 
石巻工房  復興デパートメント
http://fukko-department.jp/ishinomaki/7.html
 
※この記事は、2012年度J-School秋学期授業「ニューズルームB」(担当教員・瀬川至朗)を中心に作成しました。石巻地域メディア取材班のメンバーは、太田啓介、斉ガンユウ、斉藤明美、段文凝、藤井栄人、藤本伸一郎です。

 

 

 

合わせて読みたい

  1. ウェブでつなぐ被災地復興 ヤフー石巻復興ベースの石森洋史さんに聞く
  2. 早大生に愛された理髪店、45年の幕を閉じる
  3. 戦時中の伝説が生んだ壁新聞   「石巻日日新聞」常務取締役 武内宏之さんに聞く
  4. 早稲田大学生協「焼き立てパン」の舞台裏
  5. 震災時、いちはやく地元情報を発信   ラジオ石巻 取締役相談役 鈴木孝也さんに聞く