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赤バス運転手は元船乗り

早稲田の赤バス運転手、木村誠さん

木村誠さん(56)はハイヤー・タクシー・バス事業などを運営する株式会社グリーンキャブ所属の運転手だ。勤め先と早稲田大学の業務提携によって運行する、早稲田大学のキャンパス間連絡バス、通称「赤バス」のハンドルを握る。早稲田の先生、学生なら一度は目にしたことがあるはずの真紅の連絡バスの運転手さんに話を聞いた。【取材日:6月25日】

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  ――なぜ連絡バスの運転手をしようと思ったのですか。

  実は自ら進んで手を挙げたわけではないんですよ。今の会社に勤め始めてから8年目の2008年に、突然上から通知を受けました。それまでは福祉車両の運転を担当していました。

  ――そうなんですね。通知を受けた時はどう思いましたか。

  正直嬉しいという感情はあまりわきませんでした。福祉用のマイクロバスとは違い、連絡バスは大型車ですから。きっと苦労するんだろうなぁと。あと、運行回数も大幅に増えるので、忙しくなるだろうと思いました。

  ――実際に運転を始めてどうでした?

  福祉車両とは異なる運転の仕方に少し苦労しました。

  ――どう違うのですか。

  福祉バスを利用する人の中には車イス使用者が多いので、重心の高さを考えてあまりゆらさないよう、スピードを緩めて走ります。この場合は周りも配慮してくれるので特に問題はありません。しかし、連絡バスはそうはいきません。のろのろと走っていると、周りが無理やり追い抜こうとしてきます。ゆっくり安全に走ろうとする方が逆に危険なんです。おかしな話ですけどね。

  ――業務中に問題が発生したことは。

  そうですね。運転中の問題は特にありません。ずっと無事故です。ただ、連絡バスで言うと学生のマナー違反は何度かありましたね。

  ――どんなことですか。

  車内での飲食が禁止なのに守らない人や、ゴミを平気で置いて行く人がまれにいます。ある時は自転車ごと乗り込んでくる学生がいましたが、さすがに驚きました。

  ――それらの学生には注意しますか。

  はい。皆さん注意するときちんと理解してくれます。やはり素直なんですね。

  ――逆に学生と接していて嬉しいと感じることはありますか。

  ありきたりですが、学生から乗り降りの際に挨拶や感謝の言葉を受け取る時は、素直に嬉しいです。

  ――そうなんですね。そもそも木村さんが運転手をはじめたきっかけは何だったんですか。

  以前は船乗りをしていたのですが、転職しようと思い、たまたま今の会社が福祉車両の運転手を募集しているのを見て応募したのがきっかけです。

  ――船乗りをされていたんですか。具体的にはどういうお仕事ですか。

  原油運搬船の操舵手です。

  ――どの海域を運搬していたのですか。

  いろいろな海を渡りました。目標は七つの海すべてを制覇することだったのですが、五つ目で断念しました。船の上で揺られながら過ごす生活を10年間続けるうちに、大地の心地よい硬さが懐かしくなったのだと思います。それで陸に戻ろうと決意しました。

  ――それが今の勤め先に転職しようと思うきっかけだったんですね。

  そういうことです。

  ――でも、バスの運転手を選んだ理由は。

  陸に戻っても乗り物の運転に携わりたいという想いがありました。小さい頃から運転をする仕事が夢でしたが、まずは海でその夢はかなえたので、次は陸でもと思いました。

  ――福祉車両には関心があったのですか。

  少子・高齢化の問題は当時から言われていました。それに対する取り組みのひとつとして、社会の役に立てるという点で関心が持てました。

  ――福祉車両の運転手になるには、特別な資格が必要ですか。

  福祉車両の運転にはホームヘルパー2級が必要です。あと、私の場合はそもそもバスを運転するための大型自動車2種免許がなかったので、それの取得も必要でした。

  ――今後も運転手の仕事は続けていきたいですか。

  景気もあまり良くないですし、家族を養うためにも続けようと思っています。でも、乗り物の運転は純粋に好きなんです。船乗りをしていた時は、積み荷が油で、運転も数名でこなしていました。今は人を乗せて、しかも私1人で走らせますから。私にとっては責任とやりがいがより強く感じられるんです。

  早稲田大学キャンパス間連絡バス(早稲田~西早稲田キャンパス間)

  2008年に、大学が株式会社グリーンキャブと業務委託契約を結び、運行を開始した。現在は午前9時20分に各キャンパスからそれぞれ始発が出て、降約15分毎に運行している。18時25分発の最終便までに片道約25便(早稲田発25便、西早稲田発26便)が出る。

※この記事は、2010年度J-Schoolの授業「ニューズルームE」において作成しました。

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