20101028-niji

お金を使わずに楽しく生きる、高円寺・素人の乱

JR高円寺駅を出てすぐの北中通り商店街に、「素人の乱」という看板を掲げた店が8店舗並んでいる。リサイクルショップ、古着屋、飲み屋など、様々だ。2005年に松本哉さん(36)がリサイクルショップ「素人の乱」を始めて以来、30代の男性が次々と同じ名前で店を始めた。地域や仲間との密なコミュニケーションを重ね、お金を使わず楽しく生きられる社会を作ろうとしている。

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  松本さんは学生時代から、六本木や新宿でクリスマスに鍋を囲む「クリスマス粉砕集会」や、放置自転車の撤去反対を訴える「おれの自転車を返せデモ」などを繰り広げてきた。3年ほど前には、そういった過激なデモが、「反貧困」の街頭運動の盛り上がりなどと相まってマスコミで注目を集めた。今でも、「普通に生活をしていて腹立つこともあるとデモを起こす」と、さらっと言う。

  しかし、実際に商店街に松本さんを訪れると、店の前で古くから住む地元の人々に「あー、どうも」と挨拶をしたり、パソコンで作業しながらの店番をしたり、アルバイトの人たちと談笑したり、と平和な時間が流れる。筆者は突然訪問したにもかかわらず、「お昼、食べていきます?」と、冷麺を振る舞ってもらった。同じ商店街で代々魚屋を営む塩崎茂雄さん(77)は「(松本さんは)すごく働き者。商店街のためによくやってくれている」と笑顔で話す。

  北中通り商店街は1950年代に、他の商店街と連携して阿波踊りを始め、今では毎夏100万人以上を集めるイベントに成長した。ほかにも、独自に歳末セールやサービス券の配布をするなど街を盛り上げてきた。しかし、21世紀に入ると、大型スーパーの進出などに押されてシャッターを下ろす店が増えた。かわりに、商店街の入り口近くに、風俗店などいわゆる「ピンク産業」が7店舗ほど入った。2002年には、歳末セールやサービス券も、参加店舗が減ったため中止を余儀なくされた。

  そうした状況に危機感を募らせた商店主たちが、若い世代を無料で飲み会に誘うなど交流を増やしていくなかで、倉庫とトラックだけの無店舗リサイクルショップを営んでいた松本さんに試験的に店舗を貸し出すことになり、2005年、「素人の乱」が始まった。

  現在、松本さんの1か月の生活費は家賃を入れて10万円前後だという。しかし、頼まれて荷物整理に行った際にビールをもらってみんなで飲んだり、出前を取ったときに食事代を払うかわりに家具の修理をしたりと、金銭の授受以外でのやり取りも多い。また、友人のバーを安く借りて、知人のアーティストが出演するイベントを開催するなど、人脈を使うことでお金をかけずに楽しく遊んでいる。

  デモなどの騒ぎを起こしていた当時、周囲から過剰な期待を受けていると感じた。さまざまな人が訪れ、なかには過激に社会運動を起こそうと考える人もいた。しかし、デモなどは「本当は、ただ普通の人が集まっているだけ」で、「街の中に普通の人が過ごしやすい居場所を作る」ものだという。だから、素人の乱を組織化して事務所を作ったりはせず、遊び感覚で訪ねられるリサイクルショップを続けている。

  「イベントの時はわーっと人が集まるけど、そればっかりだと疲れる。店があれば何となく人がたまる。それが大切」

※この記事は、2010年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。 

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