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国際ペン東京大会 大隈講堂などで開催

吉岡忍さんに「環境と文学」を聞く

世界102カ国の文学者らで組織する国際ペンの年次総会「国際ペン東京大会2010」が9月23日~30日、早稲田大学大隈講堂などで開催される。参加85カ国・地域は過去最多となる。「環境と文学」をテーマに掲げ、環境をめぐる多彩な朗読劇を上演する今大会について、作家で日本ペンクラブ常務理事の吉岡忍さんにインタビューした。

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  第1次大戦の反省からスタート

主催者である国際ペンと日本ペンクラブ(国際ペンの日本支部)について教えてください。

 

  国際ペンは第1次世界大戦後の1921年、それぞれ敵対した国の文学者たちが戦争を反省し、せめて文学者だけは敵対することなくきちんと話し合おうと考えたのがそもそもの始まりなんですよ。文学者の国際的な組織はこれしかない。日本はその後、第2次世界大戦に向かう時、国際連盟を脱退して国際的な孤立を何とかしようと、島崎藤村らが話し合って加盟しました(1935年)。時すでに遅しで、日本は完全に孤立し、中国大陸やアジアに侵略していくんですね。そういう原点を持っている団体です。

  ―東京で開催されるのは3回目とお聞きしましたが。

  1回目(1957年)は川端康成会長時に「東西文学の相互影響」、2 回目(1984年)は井上靖会長時に「核状況下における文学」というテーマで開催しました。戦後の世界は、東西冷戦の構造のなかにあり、言論の不自由というのがあった。

ですから、国際ペンは「戦争と平和」の問題と「言論の自由」の2つを柱に活動してきました。その後、89年にベルリンの壁が崩れ、冷戦構造が消えていく中で、国際ペン大会の意義がなかなかわからない時が十数年間あったんですね。大会が一種の高等遊民的というかエリート意識の強いものになりがちだった。また儀礼的、趣味的なものになりがちで、中身の空洞化という危機感を感じました。そういった中で、冷戦後の人類共通の課題に文学が出来ることを示そうということで、今回は「環境と文学」をテーマとしました。

 

環境問題の質感を捉えたい

  ―「環境と文学」ですが、朗読劇には環境と直接関係のない作品もあるように思われます。

  広い意味での環境、つまり人間的現実が介在して環境にどのくらい負荷を与えているか、ということです。作家によって色んな環境の捉え方がありますよね。だけど一番原則みたいなものとして、「人間も一つの自然という自覚」と「広い意味での環境の上に我々は暮らしている」ということを考えました。

  例えば文学フォーラムの開会式で上演する阿刀田高さんの「闇彦」という作品は、死生観を通して、自然環境を描いています。死をどう捉えるかで文化の核ができる。そうかといえば、アラブ女性作家サルワ・アル・ネイミさんによる「蜜の証拠」は、非常に危うい小説で、イスラム社会のポルノグラフィーなんですよ。イスラム女性の性や身体そのものを「自然」と捉えた作品で、そうすると、男たちの通俗的な性の考え方は反自然的なんです。こういう「性」もあるのか、と初めて知りました。こういう「環境」もあるのかと。イスラム社会で大センセーショナルを巻き起こして発禁になったりしたけど、それもやはり一つの環境なんですね。

  科学的なデータももちろん大事だけど、データで表現できるものと文学的表現によって理解できることは多分違うと思う。むしろ、人間の生活実感や感受性というもののなかで環境問題の質感とかを捉えることが大事だと感じています。

写真:「闇彦」の朗読劇の打ち合わせをする(右から)吉岡忍さん、読み手の松平定知さん(元NHKアナウンサー)、原作者の阿刀田高さん(日本ペンクラブ会長) 

大隈講堂 「いいな」と感じた

  ―今回、吉岡さんが国際ペン大会の運営に積極的にかかわられるのはなぜですか。

  国際ペン大会に何度か参加しましたが、作家が互いの作品を読んでいませんでした。だから言葉だけの問題じゃなく、読んでいないから、集まっても議論にならないし本当にお互い理解したことにはならない。作家の米原万里さん、残念ながら2006年に亡くなられましたが、彼女と「この状況をなんとかしよう」と考えていました。そこで2008年2月に新宿のスペースゼロで「世界ペンフォーラム」を開催し、「文学者の集まりはこういうものだ」というモデルを作りました。「災害と文化」をテーマに、文学だけではなく音楽や映像は災害をどう描いてきたのかを会議ではなく作品で見せたんです。招待した国際ペンの人達は「こんなことができるのか」と驚いていました。東京で国際ペン大会ができないかという話になり、開催が決定しました。モデルを提案したので、今回は文学フォーラムと国際ペン大会開会式の統括責任者として運営にかかわっています。

   ―早稲田大学での開催はどんな意味がありますか。

  文学に限らずどんなテーマでも専門家だけで議論するのではなく、一般社会に開かれている必要があります。早稲田は街の中で開かれた場所にあり、大隈講堂を見にきた時に「いいな」と感じたので大学にお願いしました。日本ペンクラブ理事の半分くらいが早稲田出身で親近感があったということもあります。

 

文学は声から始まった

  ―大会の準備で苦労したことは何ですか。

  大隈講堂が講演会用に作られていることです。パフォーマンスをするにはステージが小さい。大きくするために客席の1列目までステージを延ばします。照明もすべて組み立て直して、2階の両端の席にも照明を付けます。しかし客席をあまり少なくするのも駄目なので、花道を作ることは諦めました。舞台美術は日本の演劇界の大御所、朝倉摂さんにお願いしています。大隈重信像を制作した朝倉文夫さんの娘さんです。

  ――なぜ朗読劇という表現を選んだのですか。

  世界で1番古い叙事詩のイーリアスや日本の古事記をみてもわかるように、人間が何かを伝えたり描いたりする時に使ったのは声です。声から文学は始まりました。文学は肉声で語られたものを聞く体験を通じて初めて伝わるものがあると思います。近代化していく中で声は活字になり、コンピューターに変化しました。この250年程の間に文学は直接語りかけることを忘れてしまったんです。しかし最近は、文学の持つ直接性、身体性がなければ伝わらないということも言われます。僕は活字を読むだけではなく、文学から離れていた音楽と映像も一緒に組み合わせた一つの表現を作りたい。そのため三者の持つ魅力を一体にできる朗読劇というスタイルを選びました。多くの人に観てもらいたいと思っています。

 

略歴
吉岡 忍(よしおか しのぶ) 1948年生まれ。早稲田大学在学中にベトナム反戦運動「べ平連」に参加し、『サンデー毎日』などで執筆活動をした。著書『墜落の夏—日航123便事故全記録』(新潮社)で第9回講談社ノンフィクション賞(1987年)を受賞。現在、日本ペンクラブ常務理事。早稲田大学非常勤講師。Jスクールのオムニバス授業「ジャーナリズムの使命」の講師を務めている。著書に『日本人ごっこ』、『M/世界の、憂鬱な先端』など。

国際ペン東京大会の主な行事予定

  国際ペン東京大会2010は、国内外の文学者が参加する「年次大会」と、一般向けのイベントを展開する「文学フォーラム」で構成される。主に大隈講堂で開催されるのは、年次大会前の9月23~25日にある文学フォーラムと、9月26日の年次大会の開会式だ。

井上ひさしさんの『水の手紙』を群読劇で上演

  文学フォーラムでは、今大会のテーマ「環境と文学」に合わせて選ばれた6つの朗読劇が上演される。23日の文学フォーラム開会式は、阿刀田高さんが書き下ろした作品『闇彦』を元NHKキャスター・松平定知さんが朗読する。

  26日の年次大会開会式では、井上ひさしさん原作『水の手紙』を群読劇として上演するほか、国際ペン会長らのスピーチと奄美高校の生徒による竹太鼓が演奏される。開会式後は、カナダを代表する女性作家のマーガレット・アトウッドさんと、華人系初のノーベル文学賞受賞作家である高行健さんの基調講演がある。

  このほか、「マンガとアニメは環境をどう描いてきたか?」といったセミナーや環境文学者会議、環境映画上映会などが、早稲田と京王プラザホテルで開催される。また、「日本ペンクラブ75年のあゆみ」という展示が9月26日まで、大隈タワー(26号館)10階で催されている。詳しい日程は国際ペン大会のHPを参照のこと。

http://www.japanpen.or.jp/convention2010/

国際東京ペン大会2010のポスター:

 ポスターに描かれた植物の葉は、31カ国の文字を用いてデザイン化
してある。

国際東京ペン大会ポスター.pdf

                          

 

 

 

*この記事は、学生の課外活動で取材し、作成しました。

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