2010年8月20日
取材・執筆・撮影:黒木彩香
早稲田に田んぼ「わせでん」を復活
早稲田大学の大隈庭園。多くの人が憩うこの場所に、小さな田んぼがあるのをご存じだろうか。学生NPO「農楽塾」(のうがくじゅく)という、早稲田の学生団体が活動拠点としている「わせでん」だ。広さはわずか24平方メートルにすぎないが、今年も稲がすくすくと育っている。
2010年8月20日
取材・執筆・撮影:黒木彩香
早稲田大学の大隈庭園。多くの人が憩うこの場所に、小さな田んぼがあるのをご存じだろうか。学生NPO「農楽塾」(のうがくじゅく)という、早稲田の学生団体が活動拠点としている「わせでん」だ。広さはわずか24平方メートルにすぎないが、今年も稲がすくすくと育っている。
6月半ばの昼どき、真夏のような暑さの中、大隈庭園にある池の周りで子どもたちがはしゃぎながら駆け回っていた。農楽塾が主催する「生き物観察会」だ。新宿区立早稲田幼稚園の園児が、学生達と、「わせでん」の周りを囲む池でザリガニ釣りを楽しんだ。ザリガニ釣りの合間に、田んぼをのぞき込む子どももいる。一部の稲は、この園児達が植えたのだ。
観察会は、食べる楽しさや、食べものが育つ過程を子どもたちに知ってもらいたいと、2005年に始めた「ちびっこプロジェクト」の一環だ。代表の商学部3年勝野智子(さとこ)さん(21)は、今年の田植えの様子を「子どもにとって、田んぼは深く、腰のあたりまで埋まってしまう。楽しいという子もいたが、怖がって泣く子もいました」と話す。
農楽塾は2003年の設立。大学の「平山郁夫記念ボランティアセンター」が開講する農山村体験実習を受講し、地方で農業体験をした学生達が、「都会でも農業ができたら」という思いでつくった。現在は25人のメンバーがいる。
畑も手がけているが、最初に取り組んだのが田んぼ。理由は「早稲田」の土地だからだ。名前の通り、昔は大学の周りは田が多かった。しかし、開発が進んで、田が建物に変わっていった。「早稲田に田んぼを戻そう」。田んぼづくりには、大隈庭園という、学生だけでなく地域の人とも触れ合える場所を選んだ。
大学側と交渉して許可を得て、2004年、山形県の農家の指導を受けつつ学生自ら開墾。およそ100年ぶりに早稲田に田んぼが復活した。「早稲田には農学部がなく、専門的な知識を持っている人もいないが、農家の方のアドバイスを受けながら活動を続けている」。そう話す勝野さん自身も、農楽塾に入るまで田んぼに入ったことはなかったという。
「わせでん」では有機農業をしており、農薬や化学肥料は一切使っていない。失敗もあった。去年はもち米を植えた。しかし、もち米は育てるのが難しい上に、農薬を使わないこともあって、稲が病気にかかってしまった。結局、収穫する前に全滅してしまったという。
それでもめげずに活動を続けている。「作業が面倒に感じることもある。でも、1週間経つと稲が大きくなったりして、自分たちの作業の成果が目に見えて分かるのはうれしい。稲や野菜など、普段食べているものがこうやって育っていくんだ、という驚きもある」と勝野さん。農楽塾の経験をきっかけに、自宅でもハーブなどを栽培している。「卒業しても、週末などに農作業ができたらいいなと思う」
農楽塾では年におよそ5キロの米を収穫する。米は、その年お世話になった地域の人などに配っている。今年はもちろん、田植えをした子どもたちにも食べてもらう予定だ。収穫まで様々な作業が続く。「わせでん」での秋の実りが待ち遠しい。
※この記事は、10年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。【参考ページ】
農楽塾 公式HP:http://www.nogakujuku.net/