2010年7月27日
取材・执笔・撮影:胡蓓佳
40年の変わらない家庭の味 「食事処 静」
早稲田大学にほど近い、大隈通り商店街の中ほどにある「食事処 静(しず)」。人目を引く店構えの学生相手の店が多い中で、格子戸と縄のれんの外観が落ち着いた感じのお店である。まわりの店舗は開店したり閉店したり、どんどん移り変わっているのに、「静」は約40年にわたって、いつもそこにいる。
2010年7月27日
取材・执笔・撮影:胡蓓佳
早稲田大学にほど近い、大隈通り商店街の中ほどにある「食事処 静(しず)」。人目を引く店構えの学生相手の店が多い中で、格子戸と縄のれんの外観が落ち着いた感じのお店である。まわりの店舗は開店したり閉店したり、どんどん移り変わっているのに、「静」は約40年にわたって、いつもそこにいる。
昭和46年から「静」を経営してきたのは、関根正夫さん(81)とユキ子さん(76)夫妻。賃貸の店が多いなかで、土地も家も所有しているので、たたずまいも開店当時のまま。メニューも大きく変わっていない。ある50歳を超えた早稲田大学の卒業生は、ホームカミングイベントで早稲田に戻り、「静」で食事したあと、「懐かしいなぁ」と漏らしたという。
店内は、カウンターと座敷にテーブルがいくつかあるだけで、メニューが壁にかかっている。学生向けの生姜焼きやとり唐揚げの定食だけでなく、煮魚や刺身などの定食メニューが充実しており、どれも500円~800円と手頃な「早稲田プライス」。そのため近所の年配の方も常連だ。
評判がいいのはみそ汁とご飯。使っているみそと米は、ユキ子さんの故郷、茨城県の大洗にある、何十年も付き合っている店から取り寄せる。煮干のだしの効いた少し甘めの味噌汁は、何となく懐かしさを感じるとよく言われる。
父親がコックだった正夫さんは、食材にこだわっている。業者に頼めば送ってくれるが、冷凍の魚や肉などおいしくないと言って、毎日バイクに乗って近所の市場へ買いに行くそうだ。ユキ子さんが新鮮な魚をさばいて、パン粉をつけて、サクサク揚げると、いい匂いが店内に漂う。近所のおばあさんの家でご飯を食べさせてもらっているような気分になる。
「年をとったから、豊富な種類のメニューを提供するのは難しいけど、新鮮な食材を使い、心をこめて作ったものを、お客の皆さんに食べていただきたい」とユキ子さん。夫妻は、大学がそばにあるからこそ、いつも若い人と接触する機会があって、元気でいられると微笑みながら言う。「40年は本当にあっという間だよ」と話すユキ子さんの顔に、満足そうな表情が浮かんだ。
※この記事は、10年度のJ-School授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。