尼寺孝~1

妹の死を機に患者中心の医療を目指す

25歳のとき、原因不明の精神病を患っていた妹が死んだ。深田雄志さん(30)が、神戸大学の医学部を卒業し、医療コンサルタントとして働いていたときのことだ。兄として頼りにされていたし、医療の知識もあった。なのに救えなかった。「医者に頼るだけではなく、患者を中心に周囲が支える医療がもしあれば」。痛切な思いを胸に、2007年、任意団体「ブルーバード」を設立し、患者を支えるネットワークづくりを目指している。

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 切ない思い出

  医学部に進学したが、医者になるつもりはなかった。勤務医である父親の、ほとんど寝ずに働く姿から医療崩壊を肌で感じていた。医療に関する専門知識を活かして医療映画を作ろうと考え、そのために役立ちそうな学園祭の実行委員やインターンをしていた。

  ところが、大学4年のときにパニック障害が発症した。不安感や焦燥感で外出できない日々。「どん底から回復した瞬間に、死にたいと思ったこともある」。それでも、医学部生だったので相性のいい医者や看護師に出会うことができた。とりあえずという気持ちで受けた医師国家試験には落ちたが、インターン先から声をかけられ、職場にも恵まれた。妹の死はそんな矢先のことだった。

患者を支える医療

  本当は妹を救う医療があったのではないか。医療経営を学ぶため、京都大学後期博士課程に進学した。博士課程2年目に参加した社会起業家塾で、カンボジアの児童売春問題に「事業」として取り組む社会起業家に出会う。自分が目指す患者中心の医療と、分野は違っても考え方が一致した。「医療分野で社会起業しよう」と思い立った。

  「ブルーバード」設立後は、患者支援を目指す若い世代向けのフォーラムの開催や、「資金不足」「何から取り組むべきかわからない」といった課題を抱える患者支援団体の再生などに取り組んできた。しかし、1年ほどの間に関わることができた患者支援団体は5つしかなく、活動に限界を感じた。

  2008年、事業計画を練り直すきっかけにしようと、社会起業家のためのビジネスプランコンペ「edge」に出場した。決勝には残れなかったものの、多くの社会起業家からアドバイスを受け、ブルーバードが前面にたって患者向けの情報やケアを充実させる計画に切り替えた。

  再出発の第一歩として、今年5月下旬に、地元京都の精神科医に夢や理念を語ってもらうフリーペーパーを創刊した。患者が自分に合う医者を見つけやすくするのが狙いだ。広告を集めて発行を維持し、患者のほか京都大学や同志社大学にも配る。患者のケアについても、医療コーディネーターを組織する会社との連携を模索している。

  パニック障害は治ったわけではない。だが自身の病気も強みに変え、「医学部卒のパニック症患者」として、患者を支える仕組み作りに奔走する。

  「10年後に妹が生まれていたら、幸せに生きられる社会をつくりますよ」

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【関連リンク】

「edge」公式HP:http://www.edgeweb.jp/

「ブルーバード」公式HP:http://www.patientsacademy.jp/

※この記事は、10年度J-school授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

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