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記者 上田真理子さんインタビュー

シンポジウム開催に先立ち、裁判の現場を取材しているNHK報道局社会部記者であり、登壇者である上田真理子さんに話を伺った。

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「変化」の現場

――(インタビュアー)裁判員裁判がスタートしたことによって裁判報道に変化はありましたか?

(上田さん)従来の被告人の証言と判決をメインにした報道から、裁判員の言動や弁護士・検察の立証方法など、法廷を舞台にした裁判そのものの中身を伝える報道へと大きく様変わりました。
 これには、これまでのところ被告人が既に罪を認めているなど、世間の耳目を集めるような争点が比較的少ない事件が対象となっているという事情もあります。
 私自身も裁判報道に専門的に取り組むようになって既に4年間経ちますが、一般の方と被告人が向き合うかたちでやり取りするといった、これまで見たことがなかった光景を目の当たりにし、さらに法曹関係者の事前トレーニングなど、裁判員裁判の準備の過程から取材を重ねることで、「変化」の現場に立ち会っているという充実感を感じています。

 

――裁判員裁判第一号事例でのNHKの生放送についてお聞かせください。

 まずどの裁判が裁判員裁判の第一号になるのかということがありました。5月のはじめに逮捕・起訴されたものに焦点を絞り、そこから担当弁護士に密着するなど早いうちから取材を重ねました。裁判員の選ばれ方といった制度に関する取材も行いました。そのなかで当日どのくらいの人が裁判所に出向くのだろうかということが、ひとつの懸念材料でした。実際ほとんどの人が足を運んだことには正直驚きました。
 実況中継については第一号事例という歴史的な意義と、裁判についてよく知らない一般の方が、自分たちが参加するかもしれない裁判のことを考えるきっかけになればという思いから企画したものです。NHKとしても異例のことでした。一ヶ月ほど前からリハーサルを行いました。そのなかで予想される手順を何度も確認しました。もっとも当日は裁判員が途中で交代するなど、生放送ならではの予想を裏切る事態も起きました。スタッフの数も4日間でのべ100人規模になりました。また放送ではわりとアナログな「模型」なども臨場感を伝えるために積極的に活用しました。

 

――裁判員裁判に関する取材の現状をお聞かせください。

 裁判員に対する取材ですが、候補の段階で素性を公にしてはならない、記者会見で音声の録音ができないなど様々な規制がかかっていることは事実です。
  特に守秘義務への配慮が強く感じられます。法律の表現があいまいで分かりづらいため、質問内容に細心の注意を払うなど、メディアとしても対応には苦慮しています。もっとも、裁判員側から自分たちの気持ちや経験を伝えたいという思いも感じます。裁判所という特殊な空間で数日間を過ごすことによる気分の高揚や義務感もあるでしょうが、時には記者会見に6人全員が出席してくれることさえあります。
 また立証についていえば、弁護士のなかでパワーポイントを使う人が少ないように思います。視覚に訴えるよりも言葉の力を重視する傾向があるようです。
検察側はパワーポイントや写真などをよく使います。その点裁判員に与えるインパクトに差を感じることも多少見受けられます。一方で,プレゼンテーションの質と事件の本質は分けて考える必要があると思います。また分かりやすさを追求した結果極端化され、判断に必要なエッセンスが抜け落ちてしまう危険性も考えられます。

 

CG導入の意義とは

――今回のシンポジウムのテーマでもありますが、刑事裁判に3DCG(3次元 コンピューター・グラフィック)が導入される影響についてはどのようにお考えになりますか?

 私自身実際CGを法廷で見ることはできなかったのですが、事前取材で見たり聞いたりした感想としては非常に分かりやすいというのが正直なところです。これまでも鑑定書は朗読されていましたが、取材する側としてもまったく意味が分かりませんでしたし、モニターがなかったので実際に見ることもできませんでした。そのような経験からしても、ある程度の必要性も感じます。
 一方で、CGの作り方で印象がガラリと変わってしまうことに対する懸念もあります。どのようにして正確性を確保するのか。使用されるか否かを含めてケースごとにばらつきがでないのか。慣れないものが導入される戸惑いに加えて、「今まで活字で構成されていた鑑定書が3DCGに変わっただけ」とはいえない影響があると考えています。
  もっとも同時にこれまで法廷で使われてきた写真の必要性も失われないと考えます。写真には事実認定をするにあたって理解を助ける証拠としての役割と、事件の悲惨さを訴え量刑を見極めるための証拠としての役割が求められます。
 特に「心情に訴える」点についてですが、どんな事情があったとはいえ、人を傷つけた、命を奪ったというのは大変なことであり、裁判でも苦しみながら亡くなった人々の思いを汲んで判断する必要があると考えます。私自身歌舞伎町で起きたビル火災の判決文を読んだ際にそのような実感をもちました。その点ではある程度「人間」として事実と向き合う必要性もあるではないでしょうか。そこに写真の必要性、さらには裁判員制度を導入した意味もあるように感じます。

 

――CGについてはニュース番組などでも利用されているのをよく目にします。この点メディアとして注意している点などありますか?

 まず見て分かりやすくすることを心がけています。そのため余分な情報をなるべく落とします。また刺激の強い色合いを避けたり、不必要な動かし方をしないことにも気を配っています。内容については取材に基づいた正確な情報を反映することを第一に考えています。分からない情報までは入れないよう注意しています。また恣意性を排除するためにあえて単純化したりすることもあります。CG制作にあたっては取材した記者と製作者との間で意見交換を行っています。時には絵コンテの段階から関わることもあります。

 

――最後に当シンポジウムへの意気込みについてお聞かせください。

 CGに関する専門的なお話はできませんが、裁判を日々見つめている人間として、また映像メディアにたずさわる立場の人間として、今後予想される問題点や注視している危険性などについてお話ができればと思います。

 

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