201005_hand

白馬に乗った「誠実な王子様」を見分ける方法?

「遺伝子が男性の性格を左右し、結婚生活に影響を及ぼす」という研究結果が報道された。科学の力で「浮気をせず、自分だけを一生大切にしてくれる白馬に乗った王子様」を見つけることはできるのだろうか。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 白馬に乗った「誠実な王子様」を見分ける方法?
Share on Facebook
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip

 キーワードは男性の「離婚遺伝子」?

  息の長い「婚活ブーム」が続いている。「自分のキャリアを積めば、それだけキャリアの高い素敵な男性に出会える…」なんてのは夢物語にすぎなかったことを、 キャリアばかりを積みすぎて負け犬になってしまった先輩達が教えてくれた。いまや女性達はせっせと自分磨きにいそしみ、男性にアピールしようとしている

  しかし、結婚がゴールではないことを証明しているのが昨今の離婚事情だ。平成20年の離婚カップルは25万組以上。結婚したカップルの3割は離婚するというデータもある(*1)。 「じゃあ、いったいどうしたら幸せになれるの?」という世の女子の嘆きが聞こえてきそうだ。もちろん乙女たちが探しているのは、ただの馬の骨でない「浮気をせず、自分だけを一生大切にしてくれる白馬に乗った王子様」だ。そんな男性を見分ける方法があったら、知りたいと思いませんか?

  誠実な男性とそうでない男性を見分ける—そんな夢のような技術につながる「男性の『離婚遺伝子』が発見された!」として、一躍メディアの注目の的となった論文がある。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のハッセ・ウォーラム教授によってアメリカ科学アカデミー紀要に発表された「AVPR1A遺伝子がヒトのペア形成に及ぼす影響」について検討した論文だ(*2)。 報道によると、人それぞれが持つ遺伝子の中でペア形成をつかさどるとされる遺伝子「AVPR1A」が、どんなタイプかによって男性の性格が左右され、結婚生活に影響があるというのだ。

  私とて乙女の端くれ。期待に胸を高鳴らせながらこの論文を取り寄せ、四苦八苦しながら読んでみた。しかし読めば読むほど、ことはそう簡単では無いことを思い知らされたのである。

=next=

AVPR1Aの遺伝子とコミュニケーション行動との関係

  まず、論文内ではヒトのAVPR1Aという遺伝子が、実際にペア形成に影響を及ぼしていることに対する統計学的な証明がされている。しかしこの遺伝子自体は、ペア形成のみではなく、友人関係や社交性など、社会的なコミュニケーション行動の全てに関連しているとされ、ペア形成のみに影響があるとは言えない。もともと「ペア形成」という用語自体、行動研究の観点から動物と人間を連続的に考えるために作られたもので、「ペア形成=結婚」と、人間に引き寄せて考えることも無理があるようだ。

  また、この研究の成果は552組の双子に対しておこなった人間関係に関するアンケートと、その遺伝子調査に基づいた「統計学的な」検討によって得られたものだ。つまり、1000人以上の人々を全体として眺めた場合には、AVPR1Aの遺伝子型とコミュニケーション行動に関係性が認められるが、逆に個々の男性の社交性を、AVPR1Aの遺伝子型から判断することはできないというのである。

 

本当の幸せを掴むには?

  遺伝子が人の性格を左右するのかしないのか、科学がすっきりとした答えをくれると思っていた私のような素人にとっては、肩すかしを喰らった感のある研究結果だった。なるほど、男女の仲はやはり、それほど簡単な話ではないのね。

  あれ?しかしこの結論は、最初の報道の印象とはだいぶ違う。そこでウォーラム教授にメールインタビューをしてみると、果たしてウォーラム教授自身が「私達の論文は多くが間違って引用されてしまった」と嘆いていたのである。「期待以上の注目をこの論文が浴びることになった背景はやはり、『離婚遺伝子」という間違ったキャッチフレーズが付け加えられたことでしょう』とウォーラム教授。つまるところは、センセーショナルな報道が、誠実な研究を歪めてしまった、ということなのだろう。

  結局、科学で「離婚をしない素敵な男性を見つける」ことなど、不可能なのだ。信じるべきは、恋愛で培ったおのれの眼力。バツ1やバツ2でも受け入れてくれる男性はいると信じて結婚してしまうことが、案外幸せへの近道なのかもしれない。

{#j-school_logo} 

※1 厚生労働省「平成21年度『離婚に関する統計』の概況」(2009)

(Retrieved Apr. 20, 2010)

※2 Walum H, Westberg L, Henningsson S, et al. “Genetic variation in the vasopressin receptor 1a gene (AVPR1A) associates with pair-bonding behavior in humans.”Proc Natl Acad Sci USA. 105(37): 14153-6 (2008)

PDFファイル】(Retrieved Apr. 20, 2010)

※この記事は、08年後期のMAJESTy講義「自然科学概論2」で制作したものを、一部に最新のデータを用いて加筆修正しました

合わせて読みたい

  1. 赤ちゃんの腸内細菌とアレルギー防止の関係がみえてきた
  2. 花粉症を根本から治すために 舌下免疫療法
  3. 意見公募制度、経産省が31件の行政手続法違反
  4. 構造設計の現場に迫る (2)
  5. HIV除去精子における議論