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弁護士・四宮啓さんインタビュー

裁判員裁判におけるこれからの弁護活動や裁判のあり方を通してのCGの展望を、今回のシンポジウムの登壇者である弁護士・四宮啓さん(国学院際学法科大学院教授)に伺った。

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 【裁判員制度スタート、順調な滑り出し】

――(インタビュアー)裁判員裁判が今年8月から全国でスタートしましたが、四宮さんはどのような感想をお持ちですか?


(四宮さん)順調なすべり出しだと思っています。裁判員には法律に従った証拠に基づく公正な判断が求められますが、日本は十分国民が成熟しているので大丈夫だというのがわたしの十年前からの考えでした。実際裁判員は驚くほどフェアであろうとします。ただし、裁判自体は今までと正反対のものになるので5年の準備期間が設けられましたが、専門家もうまくやっていると思います。
 もちろん、60年以上日本の裁判に国民の参加はなかったわけですから、課題はいろいろあると思います。


――裁判員裁判の課題とは、具体的にどのようなものでしょうか?


 一つ目に、国と個人における人的、経済的、情報的資源の差が検察と弁護人のプレゼンテーションの格差になってあらわれていること。二つ目に、確定されたスケジュールに追われて裁判を行うことにより評議が不十分になっている可能性があることです。これらは「裁判の公正さ」に関わる問題です。
 最後に、守秘義務の定義の広さとあいまいさも、裁判員制度を導入した目的にも関わってくる重要な問題です。裁判員は毎回何人かが記者会見に来てくれていますが、どこまで言ってよいかをめぐる議論が絶えません。このような雰囲気は、社会に向けて何かを伝えるために記者会見に来た裁判員を萎縮させてしまっています。

 

――最初に挙げられたプレゼンテーションの格差に関して、裁判員の理解を助けるツールとして鑑定書をCGで説明する試みが一部の裁判員裁判で行われました。四宮さんは裁判員裁判の第二号事例で検察が使用したCGを見られたそうですが、どのような感想をお持ちになりましたか?


 弁護士としての率直な感想は、大変だと思いましたね。ボクシングに例えると、リングの上で相手が新型のグローブをつけて出てきたという印象です。それほどCGによる説明は、専門家が書いた鑑定書の朗読を耳で聞くより格段に分かりやすく、インパクトがありました。
 しかし、ケースによっても違いますが、法廷活動では,証拠に基づく事件の状況や背景、被告の将来などのストーリーが最も重要で、証拠に裏付けられたストーリーにこそ、裁判員に対して訴える力があるのではないかと思います。

 

――CGはあくまでひとつの道具だということですね。それでは、今後CGはどのような形で裁判に使われることになるのでしょう。

 

 CGは実際、アメリカの裁判では陪審員への説得のためよく使われています。
 日本で使う場合、いくつかの方法が考えられます。第1に、CG自体を証拠として請求する場合が考えられます。鑑定書は刑事訴訟法によって特別に認められた伝聞証拠です。その鑑定書から作ったCGは二重の伝聞証拠ということになるでしょう。CGが証拠として請求される際は、反対尋問を受けるため製作者に裁判所に来ていただくことになるでしょう。第2の場合として、証拠ではない説明ツールとして使用する方法がありますね。たとえば解剖を担当した医師の証人尋問の際、医師の供述を明確にするために必要だとして、裁判長の許可を受けた上で、使用する場合です。今までの裁判でも、許可されれば図、絵、模型などを使って説明していました。
 ただし、利用に際しては問題点があります。

 

【CGの裁判利用は今まで検討されてこなかった】

――それは、どのような問題ですか?

 

 まず、どこまで認められるかという問題です。証拠として、感情に訴えて裁判員に予断・偏見を与えるものは認められるべきではないでしょう。また、法廷で使用する証拠は分かりやすいことが大事であると同時に、事実に基づくものであることが必要です。事件を特徴付けるものである限り,どんなに細かいディテールも省いてはいけませんし、変容させてはなりません。CGがこれらの要求にどこまで答えられるかが、ひとつの課題となります。また、説明ツールとして使えることになっても、事実を正確に表現しているかどうかを誰がチェックするのかという問題があります。
 今まで鑑定書は文書のみだったのですから、これらはほとんど検討されてこなかった問題です。裁判員制度の三年後に見直しに向けて、議論していく必要があるでしょう。


――ところで、裁判員制度の導入で、一般市民である裁判員が刑事事件の証拠写真を見なければならないことも問題視されています。CGが法廷で利用されるようになると、写真の代わりとして使うことはできるのでしょうか。

 

 写真の意義がなくなることはありません。写真は第一次の証拠、あるがままの事実を伝えるものであり、裁判は証拠に基づいてこそ成り立つものだからです。
  確かにバラバラ殺人事件など極めて残虐な事件で、現実に起こったことであっても証拠写真を全部見せることが却って裁判員に不当な影響を与える、ということが起きる可能性も否定できません。しかしそれは、何を見せるかの問題というより、どの範囲のものをいかに見せるかという問題だろうと思います。

 犯罪はわれわれの社会で起こっているであり、裁判員には、その社会の構成員として実際に起きた事実を知ってもらうことが、正しい判断をしてもらうためには必要なのです。

 

――裁判員裁判におけるCG利用にはまだまだ議論が必要のようですね。


  その議論こそが重要なことであると思います。 
 日本ではこれまで、そもそも裁判報道そのものが少なく、刑事事件の報道は捜査に重点が置かれていました。刑事裁判の有罪率99%という状況下で、裁判の経過がニュースにならなかったのです。しかし本来ならば、逮捕・起訴は、刑事事件の第一ステージにすぎません。第二ステージである公判こそが、国民の自由を制限するにあたって、前段階である捜査を検証する大事な機能を持っているのです。
  裁判員制度の導入によって、公判が一般市民の目にさらされることになりました。裁判のあり方が、国民に広く議論される機会がやってきたのです。CG技術も、そのような議論を提供してくれます。
  裁判員制度は、裁判員、法律家、メディア、裁判を見守る国民、それぞれみんなに新しい貢献を求める制度ですが、自由、公正、責任を果たすために、やりがいのある貢献だと思います。みんながそれぞれ少しずつ汗を流していくことで社会がよりよくなると思います。

 

――最後に当シンポジウムの意気込みについてお聞かせください。

 

 CGは裁判員にとって「分かりやすい法廷」に寄与する新しい技術です。今回のシンポジウムでは、その技術を勉強させてもらうつもりで参加したいと思います。
 記者の上田さんには、CGが裁判員にどれほどのインパクトを与えるかについて、実際に裁判を見ての感想などをお聞きしたいと思います。制作者の瀬尾さんには、CGを作る際に誤りが入り込む可能性の有無、また弁護士が利用する際だれにアクセスすればいいのかについてお聞きしたいですね。

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