0908-DrAkira

見直される自然免疫

―癌免疫療法 臨床応用の可能性―

 大阪大学免疫学フロンティアセンターの審良静男(あきら・しずお)教授は、「自然免疫」といわれる免疫の仕組みの基礎研究者として世界的に著名である。その審良氏が、2008年10月に名古屋市で開催された日本癌学会学術総会に招かれ、「自然免疫:病原体認識とシグナル伝達」と題する特別講演をした。免疫学者である審良氏が癌学会に招待された意味は何だろうか。どうやら「癌免疫療法」という治療法と関係があるようだ。

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 哺乳類の免疫システムは、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けられる。獲得免疫とは、体に入ってきた病原体の正体を認識し、その対処方法を身につけた免疫で、主に「抗体」によってそれらの病原体を攻撃するシステムだ。

 これに対し自然免疫は体が生まれつき持っている免疫で、「食細胞」と呼ばれる細胞が病原体を無差別に食べてしまうものと考えられてきた。しかし、最近、食細胞の表面から「Toll様受容体」(TLR)と呼ばれる受容体たんぱく質が発見されたことをきっかけに、自然免疫も、実は無差別ではなく、TLRを通じて病原体の正体を認識していることが明らかになってきた。

 

 審良氏は、12種類存在するTLR(TLR1~12)がそれぞれどの病原体を認識するかをつきとめ、それらの認識シグナルが細胞内に伝達される経路を世界に先駆け解明した。同氏のTLR研究に対する評価は世界的に高く、ドイツ最高の国際的医学賞、ロベルト・コッホ賞など数々の賞を受賞している。

 研究室では、気になる遺伝子を見つけると、その機能を失わせたノックアウトマウスを次々に作製し、遺伝子の機能をシラミ潰しに調べていく。この確立された実験方法こそ、審良氏がいち早く成果を挙げた要因だ。

 

 免疫学の基礎研究を癌学会で講演する意義について聞いたところ、実は審良氏自身も、なぜ癌学会に呼ばれたのか分からなかったという。

 ただ、癌免疫療法が関係することは確かなようだ。癌免疫療法は、免疫システムを刺激することにより癌細胞を攻撃させるという治療法だが、科学的根拠に乏しいと言われてきた。審良氏らの研究で、TLR7、9という受容体たんぱく質が、異物のRNA、DNAをそれぞれ認識することが発見されたことで、癌免疫療法における、DNAやRNAを使ったワクチンの臨床応用に理論的な基盤が与えられた。

 しかし、基礎研究を臨床応用させるのは容易なことではない。審良氏も、最近再び注目を集めている癌免疫療法について、臨床応用にはまだまだ時間がかかるという見解だ。

 

 審良氏は「どんな研究領域にも必ず発展のピークがある。癌免疫療法が注目されるのはこれが3度目くらいだが、本当に有効な医療として確立させるにはさらなる飛躍が必要だ」と語った。

 

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※この記事は、08年後期のMAJESTy授業「科学コミュニケーション実習4」において、瀬川至朗先生の指導のもとに作成しました。

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