多文化を尊重する社会を子どもたちと共に
今年4月に改正入国管理法が施行され、日本は今後より多くの外国人を受け入れるようになる。横浜市の仏向小学校で国際教室を担当する菊池聡先生(52)は多様な文化を尊重する学校の環境づくりに携わっている。「隣にいる人とうまくいくためにお互いの納得のいく方法を考えていくのが多文化共生」だと話す。
(トップの写真:各国を旅して集めた民族衣装の前で、多様なルーツを持つ子どもたちについて語る菊池聡先生=2019年5月20日、横浜市保土ヶ谷区の横浜市立仏向小学校、萩野愛撮影)
仏向小では、外国にルーツがある児童は33人で全体の約1割にあたる。「キクチランド」と名付けた国際教室では、中国やボリビアから来たばかりの児童3人が国語や社会、算数の授業を一対一で受けている。菊池先生は「学校教育を通じて一人一人の良さを引き出していきたい」と意気込む。
「鍋をゆする」「材料をかき混ぜる」。日常生活でよく使う表現だが、「ゆする」や「かき混ぜる」といった動きが分からない子がいる。経験も語彙も少なく、頭に浮かんでこない。そんな時、一緒に動作をして言葉を教える。国際教室での授業は、言葉だけを取り出して教えるのではなく、必ず体験を通して言葉を身に付けていくよう心がけている。
宮城県仙台市出身。1年目に赴任した仙台市立の小学校は東北大学の寄宿舎を学区に抱え、全国から帰国子女を受け入れていた。そこで初めて受け持った児童の半分が外国人の子どもだった。外国の子どもたちの日本語や文化に触れて「自分も海外に行ってみたい」と思い、香港日本人学校大埔校に3年間勤務した。
マジョリティーから歩み寄るという教育実践
香港では、自分がマイノリティーになる経験をした。隣に住む香港人がたどたどしい日本語で話しかけてきてくれた。この時の経験から、「マジョリティーからマイノリティーへ歩み寄る」をモットーに多文化共生教育を行ってきた。
日本語に課題がある子どもたちは、普通の教室では発音やアクセントを笑われるのを気にして、なかなか一歩を踏み出せないでいるという。そんな時は、クラス全体がその子の言葉に合わせるようにする。中国から来た子がいたら、クラス全員で1週間「ザオシャンハオ」と中国語の「おはようございます」で挨拶をする。そして、次の週はベトナム語で挨拶をしてみるといった具合だ。子どもたちは、様々な国の挨拶の言葉を自然に覚えることができる。国際教室は、休み時間にみんなが遊びながら、多文化に親しめるオープンな場にしている。「マイノリティーが活躍できる働きかけをすることが大切」と語る。
将来の日本社会を支えていくのは、今の子どもたちや次の世代の子どもたちだ。その子どもたちに「国籍や肌の色や言葉は関係なく、お互いの良さを認め合っていくことの大切さをわかってもらいたい」。
これまで、子どもたちが母国の文化や言語を尊重し、忘れないようにするための取り組みを行ってきた。よく「外国人児童が多いからそうした取り組みができた」と言われる。でも、その度に「一人だからこそ、やってあげてください」と返す。仏向小に異動して「一人のためにみんなが力を合わせる学校に変えたい。それを証明したい」と思った。国際教室に展示されている民族衣装や民芸品は、旅行や研修で各国から買い集めてきたものだ。海外の日本語教育の現場を歩いてきた経験は、現在の多文化共生教育の実践につながっている。
この記事は2019年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。
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