都心の隠れ湯を意識した「万年湯」を経営する武田信玄さん=2019年7月14日、東京都新宿区大久保、萩野愛撮影

貸しタオル、貸しロッカーなど外国人や若い人でにぎわう万年湯

 東京都新宿区大久保の一角にある万年湯は、2016年にリニューアルして以来、外国人や若い人でにぎわっているという。今、流行りの韓国のアメリカンドッグ「ハットグ」を片手に女子学生も訪れる。タオルを無料で貸し出しているので、手ぶらで行くことができる。訪ねてみると、浴室の障子風の大きな窓からは、柔らかな光が差し込み、いわゆる昔からの富士山が描かれた銭湯ではなく、壁には鶴のモザイクタイルがはめ込まれていてモダンな雰囲気だ。

(トップ写真:都心の隠れ湯を意識した「万年湯」を経営する武田信玄さん=2019年7月14日、東京都新宿区大久保、萩野愛撮影)

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 新大久保駅から大久保通りを歩いて5分ほどの路地に入ると「万年湯」と書かれた門が迎えてくれる。入り口の引き戸を開けると「靴をお脱ぎください」と日本語、中国語、韓国語、英語で書かれたマットが目に入る。コンセプトは、「外国人が来ても日本の銭湯のイメージを持ってもらえるように、それでいて新しい感じ」と武田信玄(のぶよし)さん(50)は語る。「時がたっても色あせない銭湯にしたい」と伝え、設計をしてもらった。

 「心が落ち着くような場所を心掛けてお店をやっています」。1日に平日は約300人、日曜・祝日には約400人が利用する。リニューアル前から100人近く増え、特に若い人が訪れるようになった。「帰りに『また今度来ようね』と聞くとうれしい」と妻さつきさん(47)は笑顔を見せる。

 1961年に信玄さんの祖父がこの場所にあった銭湯を受け継いだ。祖父は、新潟から上京して弟子入りした。前のオーナーや先祖から代々継承されたのが、今の「万年湯」だ。施設が老朽化したことと来年の東京五輪の影響で建築費が上がることを考慮し、「今のうちにやらないと」と思い、リニューアルに踏み切った。銭湯を取り巻く環境は厳しい。東京都が発表する都内の公衆浴場の統計データによると、浴場数は2007年からの10年間で4割減少している。その中で、時代の変化に合わせた新たな展開を模索している。

 「気軽に立ち寄ってほしい」という思いから、フェイスタオルの1枚無料貸し出しサービスを始め、リンスインシャンプーとボディソープを備え付けている。中でも、人気を集めているのが1か月400円で利用できる貸しロッカーだ。61個ほぼ全てが埋まっている。

 子どもを連れてきていた高橋達二さん(41)一家は、アメリカ出身の妻サラさん(44)も「本当にこのお風呂が好き」とほほ笑んだ。

 バスタ新宿から交通の便もよく旅行客の利用も多い。京都女子大学4年の片平楓香さん(21)と奥村菜月さん(21)はリクルートスーツ姿で暖簾をくぐった。都内で就職試験を受けた帰りに立ち寄り、「今日、夜行バスで帰ります」と話した。

 西早稲田キャンパスから徒歩10分とほど近い早稲田大理工学部の学生も訪れる。大学院修士2年の岩崎遥さん(24)は万年湯を訪れるのは4回目。「パックとフルーツオレが欠かせません」と慣れた様子を見せた。

 さらに、この夏は世代を超えてお客さんが交流する場になればとイベントを用意した。「夏休み!!ガラスびん×地サイダー&地ラムネin 銭湯2019」(日本ガラスびん協会主催)が7月13日から9月1日まで開催された。サイダーやラムネという懐かしい響きの中で、新たな夏の風物詩となっている。

 

この記事は2019年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。

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