どうする?どうなる? 早稲田・大隈通り商店街のキャッシュレス決済
キャッシュレス決済がコンビニエンスストアでも導入され、目にする機会が多くなった。早稲田・大隈通り商店街は昨年から積極的に導入を促している。大隈通り商店街会長の安井浩和さん(41)は「初期段階から使うことで、小規模店の声を届けることができ、商店街にとっての使いやすさにもつながる」と期待を込める。一方、未導入の店舗も一定数あり、課題を指摘する声も。新しい時代に向けた地元商店街の生き残り策を現場に見た。
(トップの写真:大隈通り商店街会長・安井浩和さんの食料品店「こだわり商店」では4種類のコード決済が使える=2019年7月8日、東京都新宿区、中西慧撮影)
安井さんによると、複数ある決済手段のうち商店街が最も力を入れているのが二次元バーコード(QRコード)決済だ。レジ横の用紙に印字されたコードを買い物客がスマートフォンで読み取り、アプリで支払う金額を自ら入力する方式。設置費用が安いため、小規模店でも導入しやすい。商店や買い物客に慣れてもらうため、昨年はこれを用いたスタンプラリー型の実証実験を行い、大手ラジオ局の番組にも取り上げられた。
CD販売店「ニッポー」では導入後に留学生の客足が増えた。手元に現金がない時も購入できるので、QRコード決済が普及している中国からの留学生に好評だという。店長の打出香津子さんは「CDは単価が高いので、QRコードだと支払いが楽。手数料もクレジットカードより安く、今後も使いたい」と前向きだ。
一方で、支払いの完了を店員が買い物客のスマホや店側の端末を見て確認する必要がある。この近辺ではランチ需要が多く、忙しい時間に手間を増やせない飲食店の中には導入を断念したところも。
「LINE」や「Pay Pay」といった大手決済事業者は普及拡大のため、期間限定で決済手数料を店舗に課していない。「勉強のため」と導入する店は多いが、無料期間終了後も使い続けるかは検討中の店舗も少なくない。
小規模店ならではの難しさもあるが、安井浩和さんは初期段階からの参加には意義があると強調する。商店街の話題作りになる上、導入店の意見が今後の改良に反映されやすいという狙いもある。
より大きな動きも進行中だ。現在、同商店街も含めた早稲田大学周辺商店街連合会(7商店街と古書組合の約350店舗が加盟)が、メルカリのQRコード決済アプリ「メルペイ」とのタイアップ企画を進めている。「メルカリが導入店舗に決済用のタブレット端末を無償支給する」という条件で、6月末までに100店舗以上の小売店が導入した。
さらに、10月の消費税増税に伴い、政府の「キャッシュレス・消費還元策」も始まった。政府の補助金の下、対象の中小店舗でキャッシュレス決済を使うと5%(フランチャイズ店の場合は2%)のポイント還元がされる制度だ。
連合会事務局長を務める、印刷店「コーエー」の滝吉道信さんは「導入しなければ、中小商店はチェーン店との競争でますます不利になる」と危機感を抱く。制度自体にも事前登録が必要など複雑な点があるため、加盟店にはなるべく早く導入するよう勧める。「課題もあるが、将来への投資と考えて先取りするのが大事だ」と滝吉さんは力をこめた。
この記事は2019年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。
合わせて読みたい
- 戦時中の伝説が生んだ壁新聞 「石巻日日新聞」常務取締役 武内宏之さんに聞く
- 人々の記憶を継承する新しいメディア『デジタルアーカイブ』―情報アーキテクト・渡邉英徳さんに聞く
- 放射線リスクの自己判断ができるような環境を整える―—福島民報 編集局次長 早川正也さんに聞く
- 被災地の記憶を後世へ
- 子供達に「第3の居場所」を提供したい