美容室「ラシーヌ」のオーナースタイリスト酒井通江さん。写真右側にある受付には、本人曰く「ぷっと笑える、かわいい小物」が置いてある=2017年5月12日、東京都中野区、阿部未沙子撮影

髪の毛の寄付活動通じ、お客さんを幸せな気分に

中野区の美容室

寄付活動を通じて、提供者にもハッピーになってほしい―。東京都中野区にある美容室「ラシーヌ」のオーナースタイリスト、酒井通江(ゆきえ)さん(44)は、髪の毛の寄付活動にかかわって5年になる。髪を贈られて喜んでくれる人たちの存在を伝えることで、お客さんにも満足感を持ってもらいたいと願う。

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 中野駅南口を出て商店街を3分ほど歩くと、美容室「ラシーヌ」が現れた。カット席が3席、シャンプー台が2台の小さな美容室だ。

 酒井さんが寄付活動を始めたのは、お客さんからの質問がきっかけだった。「髪の毛の寄付って知ってます?」。

 病気などで髪の毛を失った子ども達に、医療用ウィッグ(かつら)の原料となる毛髪を、専門の団体を通じて提供する活動だった。「人のためにもお客さんのためにもなる」と考え、調べ始めた。しかし、そのお客さんの髪の長さでは、日本では寄付ができないことが判明。最終的に、フロリダにある団体へ髪の毛を届けた。

 寄付希望者にはカットしたい髪の毛の長さと普段のライフスタイルを尋ね、それに合う髪形を提案しつつ、久しぶりに短くするためにカットした後のストレスが無いように配慮する。最後には、人のためになったことや、喜んでくれる人がいることを必ず伝えるようにしている。

 酒井さん自身も、今年3月に髪を寄付した。頑張って伸ばすお客さんや、スタッフの姿を見て「自分も、伸ばす大変さを経験してみよう!」と考えたからである。くせ毛やうねりと戦いながら2年間かけて伸ばし、知人の店で寄付をした。

 寄付のためには、最短で31センチカットしなければならない。長い髪の毛をカットしたことで「髪の毛ロス」、喪失感を抱くことはないのだろうか。ラシーヌでは、「人のためになるのだったら、髪をばっさり切る決意をしてよかった」というお客さんが多いという。髪の毛ロスを感じている様子は、これまでのところそれほど見られないそうだ。

 寄付をしてくれた人には、その後の報告も忘れないようにしている。寄付した日にち、お客さんのイニシャル、カットした長さ、そして送り先を毎月ブログにアップする。

 「もし私が寄付をする立場だったら、髪の毛が、人のために役立っているかどうか、知りたいなと思って」。髪の毛を寄付した人も、これからしようとする人も、ブログを見て安心する。「このお店は寄付をちゃんと最後まで見届けているから、来ました」と言われたこともあるそうだ。

 

細やかな気遣い、店内随所に

 こうしたお客さんへの細やかな心配りは随所に見てとれる。「もしかしたら、新規のお客さんが来るかもしれないから」と、このインタビュー中も外の様子を常に気に掛ける。快適に過ごしてもらうために、トイレや置物にもこだわる。話しかけるタイミングも、本のページをめくる瞬間を心がけるなど、気配りを欠かさない。

 仲間への細かな指導や気遣いも、酒井さんは忘れない。接客に悩んでいたスタッフは、お客さんを送り出す時の接し方や会話について、天気のようなちょっとした会話をすることが大事よ、とアドバイスを受けた。また、「ラシーヌ」ではスタッフ同士で誕生日会を開いている。職場の居心地のよさも大切にしている。

 酒井さんが美容師を志したのは、小学生のころからだ。「美容院に行くと、テンションが上がってハッピーになれた」。そして、人の気持ちを変えることができる美容師という職業に興味を抱き、専門学校に進学。都内の美容室で経験を積み、2003年1月に「ラシーヌ」をオープンさせた。

 明るい表情が印象的な酒井さん。自分が笑顔でいることで、周りも自然と笑顔になると考える。それは、「お客さんに、笑顔で帰ってもらいたい」という信念から生まれている。

 

この記事は、2017年春学期「ニューズライティング入門」(朝日新聞提携講座、柏木友紀講師)において作成しました。

 

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