丸実商店のオーナー、實方恒平さん。服だけでなく漫画や早稲田の街についても教えてくれる学生の兄貴分でもある=2017年6月8日、東京都新宿区西早稲田、河野さくら撮影

国産の古着のよさを感じて

~おしゃれの基本、伝えたい~

国産の古着を通して、おしゃれの基本を伝えたい――。そう語るのは、東京都新宿区西早稲田で「古着処・丸実(まるみ)商店」を営む實方恒平(じつかた・こうへい)さん(35)だ。今年で13年目を迎え、今年5月には、一軒先にリニューアルオープンした。店内には1960年代から現代までの国産の古着が並ぶ。国産古着にこだわるわけを聞いた。

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 早稲田大学から早稲田通りを歩いて5分。「○=まる」の中に「み」とひらがなで書かれた看板が、丸実商店の目印だ。

 店内の古着は埼玉県のリサイクルショップなどから1点、1点ピックアップして持ってくる。古着というと海外ブランドのイメージがあるが、實方さんは基本的に「国産」にこだわる。

 品質、仕立て、縫製、パターン、日本の古着は素晴らしいという。特に、腕回り、首回り、バストの作りは、日本人に合うように作られている。高校卒業後、古着屋で働く中でそのことに気が付き、その後、独立して2005年に丸実商店を開店して以来、国産中心に扱っている。

 店内には1000円、2000円台の手に取りやすい商品も並ぶ。早稲田という土地に合わせているという。学割や雨割などもあり、「高くしてしまうと、言いたいことも伝わらないから」と實方さん。「言いたいこと」とは、おしゃれの基本。服を購入する時のちょっとした視点だ。

 例えば、スカートに裏地があるかどうかを気にかける。よい裏地が一枚ついているだけで、着心地の良さは全く異なる。「速乾性のハイテクなインナーがスカートの中に付いているのと同じ効果がある」。付いていなければ、白いスカートなら透け感に配慮して下にペチコートを合わせる必要がある。あるいは、ポケットのあるなし。ポケットは作り手からすると手間がかかるが、それを惜しまない日本製の昔のスカートは素晴らしい、と気づいてほしい。

 最近のファストファッションの台頭に伴い、こうしたおしゃれな人の基本感覚が失われつつあることに気付いた。そこで自分の店が細かな部分にこだわり、安価で売れば、そんなことが話せるし、そうした感覚が広がっていくのではないか、と願う。

 實方さんの思いは店内にも表れている。鏡は試着室の外。「試着室の中にあると、自分だけでサイズが合わないな、などと判断して、出てきちゃう。鏡が試着室の外にあると、出て来てどういう風に合わないか、鏡を見ながら、言葉で伝えようとするでしょう」。実方さんがアドバイスすることで、着こなしを考えることができる。「気になった服を合わせないで帰るのは、もったいない。可愛くなれるチャンスなのに、かっこよくなれるチャンスなのに」。と話す。

 

全国から来店、TV番組に衣装協力も

 学生街のお客さんは流動的だ。4年間過ごすと卒業し、また次の大学生が入ってくる。人は流れていく。それでもいつかふと、丸実商店で買い物をしたことを思い出してくれれば、買い物の仕方も変わるだろう、と實方さんは思う。

 店の品質の良さは口コミやツイッターでも広まっている。最近は早稲田の学生だけでなく、他大学や、青森、大阪、富山など全国からお客さんが訪れる。店の公式ツイッターは3000フォローを超えた。最近はドラマやアーチストのコンサートツアーの仕事も増えてきた。テレビ東京のドラマ「模倣犯」や、ロックバンド・レベッカのノッコさんのライブで衣装協力も担当している。

 個人店であることを生かして、實方さん自身がリメイクや直しも引き受ける。長袖が半袖ではないだけで、着るのをあきらめるのはもったいないからだ。

 實方さんは最後にこう付け加えた。「家に帰るまでが遠足じゃないけれども、帰って家で着た時が『丸実』なのではないかと思う」。買った時の一時的な嬉しさだけではなく、家で帰って着た時、実際に着用する時、「やっぱりかわいい、と楽しんでもらえれば、脳裏には丸実商店が残るのではないかな、と思っている」。

 

この記事は、2017年春学期「ニューズライティング入門」(朝日新聞提携講座、柏木友紀講師)において作成しました。

 

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