熊本での全早慶戦に先発予定の早稲田大学・大竹耕太郎投手

全早慶戦、被災地熊本で開催 8月5日

―熊本出身の大竹投手が先発予定―

地震で大きな被害を受けた熊本で今月5日、全早慶戦(オール早慶戦)が開催される。注目は早稲田大学の大竹耕太郎投手(22)だ。高校時代は熊本の済々黌(せいせいこう)のエースとして甲子園出場を果たし、早稲田に進学後は、1、2年時にリーグ戦で好成績を収め、大学野球界でも注目されるピッチャーとなった。だが、3年の春季リーグ戦の最中に熊本地震が発生、その後はピッチングに影響が出はじめた。今回の熊本大会は、大竹投手にとって久しぶりの先発マウンドとなる予定だ。地元での試合に掛ける思いを聞いた。

(トップの写真:熊本での全早慶戦に先発予定の早稲田大学・大竹耕太郎投手)

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 8月5日、熊本城公園内にある藤崎台県営野球場で早稲田大学と慶應義塾大学がぶつかる。ただの早慶戦ではない。現役選手にOB選手を加えた「全」早慶戦だ。

 大竹投手の活躍もあり、一昨年から早稲田の熊本同窓会が全早慶戦の誘致活動を実施。その後、済々黌出身の早慶OBも加わり、昨年夏の熊本開催が決まっていた。

 だが、準備が進んでいた昨年の4月、熊本地震が発生。やむなく中止が決まった。それから1年が経ち、実現にこぎつけた。

 大竹投手は、済々黌のエースとして高校2年の夏の甲子園大会、高校3年の選抜大会に出場。公立の進学校が甲子園に出場するとあって、熊本県内で大きな注目を集めた。

 早稲田に進学後は1年の秋季リーグから先発投手として出場。東京六大学野球で春秋連覇を果たした2年の時には、春季リーグ戦で最優秀防御率を叩き出し、全日本大学野球選手権大会でも優勝に貢献。大学野球界でも注目を集めるようになった。

 だが、3年に進級した直後に発生した熊本地震は、その後の野球に影響を及ぼした。「居ても立ってもいられなかった。熊本に帰って何かできることがあればやろうと思っていた」。大竹投手は振り返る。東京で野球をしていていいのかと悩んでいた時、早稲田の髙橋広監督(62)が声を掛けた。「東京に残って活躍した方が、熊本の人のためになる」。

 震災発生から一週間後、大竹投手は同じ熊本出身の当時4年生だった山城舜太郎選手(24)と、大学のキャンパス内で開かれていた応援部のイベントに参加し、学生に向かって呼びかけた。「どんな形でもいいので、熊本のためにご支援よろしくお願いします」。故郷に対する熱い思いからの行動だった。

 だが、震災以降、自身の調子は狂い始めた。「地震もあったから、抑えたいという変な責任を感じていた」。髙橋監督も、当時の大竹投手について、「郷土に勇気を与えないといけないという思いで力みが出たのではないか」と話す。震災直後は収まらない余震が心配で、夜遅くまで熊本のニュースを観ていたこともあった。さらに、自身の故障やキャッチャーの変更も重なり、先発での出場機会を失っていった。

 だが、最終学年の4年生となった現在、意識は少しずつ変わり始めている。「意識的にチームの先頭に立って、常に下級生に見られているという自覚を持つようになった」。キャプテンの佐藤晋甫選手(22)も大竹投手について、「ピッチャーリーダーになって、今のままじゃだめだという自覚が芽生えたのではないか」と話す。全体練習後もグラウンドに残り、トレーニングやランニングをこなす。今ではチームを引っ張る存在だ。

 髙橋監督は大竹投手の先発起用を今から公言している。「今大会は大竹のための全早慶戦みたいなのものだ。故郷に錦を飾るという意味でも、完投して勝てるようがんばってほしい」。3年の秋季リーグ以来の先発マウンドとなる。

 大竹投手は言う。「高校3年の夏に熊本大会の準決勝で負けて甲子園に出られなかった分、絶対大学で活躍してやるという思いがあった。大学で4年間やってきて、まさか藤崎台に帰ってこられるとは夢にも思っていなかった。被災された方に少しでも笑顔や元気を届けたい」

 済々黌を甲子園に連れていった左腕が、早稲田のユニフォーム姿で熊本のマウンドに立つ。

 

この記事は2017年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木 友紀講師)において作成しました。 

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