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地域を盛り上げる伝統野菜 復活した早稲田ミョウガ

 早稲田にかつて存在したという「早稲田ミョウガ」が、約100年の時を経て2010年に復活した。地域に根ざした「伝統野菜」の復活に地元は盛り上がっている。今後は地産地消の考え方のもと、「ここでしか食べられない野菜」として知名度アップを目指す。

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 早稲田ミョウガは大ぶりで、鮮やかな紅白色と強い香りが特徴だ。かつて早稲田にはそんなミョウガの畑が広がっていたという。その様子は1873年の地誌「新編武蔵風土記稿」や、早稲田大学校歌「都の西北」の作詞者、相馬御風の「みやうが畑」という詩にも描かれている。しかしJA東京によれば、早稲田大学の前身である東京専門学校が出来た1882年以降、宅地化が進みミョウガ畑も姿を消した。

 江戸東京伝統野菜研究会の大竹道茂さん(69)は90年以降、JA東京で伝統野菜の復活に取り組んできた中で、早稲田ミョウガにも興味を持った。しかし調査してみると「栽培されたという農業上の記録は、一切なかった」という。それでも「ミョウガは雑草ではないから、まだどこかで刈られず、ひっそりとあるのではないか」という好奇心が勝った。

 2010年秋、早稲田大学の学生8名と結成した探索隊と共に、明治26年から5代に渡り引き継がれてきたという旧家の庭で、ついに早稲田ミョウガを発見した。

 根が休眠する冬を待って掘り起こし、栽培知識が豊富な練馬区の農家、井之口喜実夫さん(65)に復活を託した。かなり根が傷み、細くなっていたが「とにかく栄養をしっかり与えて、大事に管理した」という井之口さんの努力もあり、翌年には弱っていた根も息を吹き返し、無事に収穫を迎えた。今春には、ミョウガの根茎を暗所で栽培する高級食材「ミョウガタケ」の栽培にも成功した。

 早稲田ミョウガの旬は9月から10月中旬まで、ミョウガタケは3月から4月にかけてだ。一年中取れるわけではなく、旬の時期は短いが、その時期には他地域産にはない個性的な味が出る。ミョウガタケは都内の有名料亭から、早くも仕入れの申し出が来ているという。また、新しい伝統野菜に地元商店街は湧いている。昨年は商店街主催のイベントで早稲田ミョウガが振る舞われ、銭湯ではミョウガ湯が張られた。

 反響の大きい早稲田ミョウガだが、すぐに生産量を増やして、全国に広める予定はないという。生産する農家は登録制で、現在は7軒が栽培に携わる。そうした門外不出の考え方で、種の希少性と価値を高める。「伝統野菜の考え方は地産地消。この土地に来て、食べていただく」と話す大竹さんは、しっかりとブランド作りを意識している。

 個性的で希少な伝統野菜によって、栽培する農家が潤い、そしてそれを食するために人が訪れ、地域が盛り上がる。早稲田ミョウガは、そんな新しい伝統野菜のモデルを目指す。

 

2013年6月
写真は、収穫を迎えたミョウガタケの前に立つ大竹さん(右)と井之口さん

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※この記事は、13年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(矢崎雅俊講師)において作成しました。

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