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プラムポックスウイルスに揺れる「梅の里」

 未成熟なまま果実を落とし、商品価値を無くしてしまうプラムポックスウイルス(PPV)に感染したウメが、東京都青梅市で多く見つかっている。市内で2012年度に、1万本あまりが処分される見通しだ。今までに処分した数と合わせると、6万5000本あまりあった青梅市のウメ3分の1が処分される計算になる。3年前に青梅市で初めて感染が確認されて以来、調査を行ってきた結果、地域によっては壊滅的な被害を受ける見通しであることが明らかになった。その地名の由来であり観光資源である青梅市にとっては大きな打撃となっている。
 (写真はプラムポックスウイルスに感染した南高梅の葉。原島さんのウメ畑で)

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2009年に青梅市で国内初の確認

2009年、東京都青梅市でプラムポックスウイルスに感染したウメが国内で初めて確認された。農林水産省によると、プラムポックスウイルスは、ウメやモモなどサクラ属の植物に感染するウイルス。感染した樹の葉には斑点が出たり、果実が成熟前に落ちてしまったりして、ウメとしての商品価値を無くしてしまう。感染したウメの実を食べたとしても人体に影響はない。

青梅市梅郷地区にある原島馨さんのウメ畑。樹は2012年中に処分される予定だ。

 青梅市梅郷地区にある原島馨さんのウメ畑。樹は2012年中に処分される予定だ。

2010年2月、農林水産省が「緊急防除」をあきる野市、青梅市、八王子市、羽村市、奥多摩町、日の出町で開始した。この措置によって、対象地域からウメなど感染する可能性のある植物の行き来が禁止されているほか、感染している樹は根から抜いて切り分け、焼却することになっている。処分した樹については、国からの交付金をもとに都が補償する。消費・安全対策交付金として、2010年度には調査費や処分の費用などを含めて、国から2億4000万円あまりが交付されている。

 

ウメの3分の1を処分

 調査により青梅市では2010年までに約800本の感染樹が見つかり、1万2500本あまりを処分した。生産園地で感染が見つかった場合、全体の10%以上が感染していたら、園地内の全てのサクラ属の植物を処分する。そのため感染した樹の数よりも処分する数のほうが多い。2011年に行われた調査では「梅の里」として、ウメ農家が多く住んでいる梅郷地区を中心に、3046本の感染した樹が見つかった。2012年度に9000本以上が処分される予定だ。

40年来、同地区でウメを育て続けてきた原島馨さん(71)、富代(ひさよ)さん(68)夫妻も例外ではない。今年中に育てているウメの樹100本あまりが処分される予定だ。「まだ樹が処分される前だから分からないけど、全部が根ごと抜かれたらどういう気持ちになるのかな…」と苦笑い交じりに、富代さんはこぼした。1970年代から徐々に同地区でウメを植える人が集まるようになり、梅郷地区は「梅の里」になっていったのだという。富代さんは、おもむろに1970年代に撮影された同地区の航空写真を取り出した。写真には土肌ばかりが写り、どこにもウメの樹が見当たらない。それを見て「この時に戻る、ってことなんですよ」と語る。それでも、ウメを作っていきたいという気持ちに変わりはない。「この地区のウメ農家は高齢化しています。だから、少しでも早くウイルスを根絶して、ウメを植えられるようにしてほしいんです」と馨さんは話した。

 

観光かウメ生産か、悩む農家

 プラムポックスウイルスは、アブラムシに運ばれて拡大する。そのため、至近距離にサクラ属の植物があると、いつまでも感染源を絶つことができないのではと心配する農家は多い。生産園地と異なり、公園や家の庭で育てている樹については例え10%以上の感染が確認されても、感染している樹のみを処分する。とくに1700本のウメの樹が植わっている「梅の公園」がある梅郷地区では「公園に樹が残り続けることでウイルスが絶えないのでは」と憂慮する声もある。「梅の公園」は青梅市有数の観光地で、毎年2月には梅の花を楽しむ「吉野梅郷梅まつり」が催され、観光客で賑わせている。

 梅郷地区で補償交渉を担当する青梅市の職員は「梅の公園にあるウメの樹の感染は10%に達していない。しかし、ウメの樹が残ることを心配する農家の声は確かにある。また庭木と生産園地の境があいまいな所も多く、苦労している点だ」と話した。補償交渉を終え次第、処分のための作業に入る。

 JA吉野梅部会会長の石川毅さん(73)は「公園に一本も樹を残さないと観光が成り立たないことも事実だし、管理をしているのは市だから私たちがどうしろとは言えない。しかし、私たちが処分に協力しているのは、一日でも早くウイルスを無くしてほしいから。まずは今年の作業を終えて、今後、新たな感染が出てくるのかどうか様子を見守りたい」とした。

 2012年3月、市と農家とで「梅の里再生計画検討委員会」を立ち上げた。これから「梅の公園」の今後を含めて「梅の里」をどう再生していくか話し合われる予定だ。 

※この記事は、2011年秋学期のJ-School実践授業「調査報道の方法」において作製しました。

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