何文傑~1

「日本の伝統文化の素晴らしさを知って」/ 江戸小紋一筋150年、東京染物がたり博物館

早稲田大学・早稲田キャンパスの東門から、神田川の桜並木に沿って1分くらい歩くと、二つの木造屋敷が新緑の中にたたずんでいる。染色工房の「富田染工芸」と、「東京染物がたり博物館」だ。博物館は、日本で唯一の小紋専門の博物館。ここでは、日本の伝統的な染色技法、「東京染小紋」と「江戸更紗」を守り続けている。

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一はけ一はけ、手作りの味わい

  博物館の展示室に入ると、ガラスケースに色鮮やかな染物が並んでいる。周囲の壁には、美しい図案が彫られた型紙がたくさんかかっている。染物を作る道具も置いてある。

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  展示室は、染物の工房を兼ねている。木造の低い机に向かい、ほのかに光る豆電球の下で、職人の浅野進さん(67)が、メガネをかけて、型紙に糊(のり)を、一はけ一はけ丁寧に塗っていく。

  富田染工芸は大正3年(1914)の創業。神田川の清流を求め、浅草から落合(現在の早稲田)に移ってきた。当時の神田川は水量が豊富で、最盛期には300軒を超える染色業者が栄えていた。だが、1960年代半ば以降、着物作りの機械化が進む中で廃業が相次ぎ、現在残るのは富田染工芸だけだ。

  博物館は、多くの人に作業を見学して伝統の染め物の素晴らしさを知ってもらおうと、1996年に開館した。5代目の富田篤さん(62)が館長だ。管理を任されている浅野さんは、「江戸時代は大変なにぎわいだったようです」と話す。「着物づくりはとっても丁寧な作業なんです。最近はどんどん機械化されて、手で作る味がなくなってしまったね」

 

匠の技を知る

  小紋とは、着物に染める細かな柄のことだ。布地に和紙の型紙を置き、糊を塗って色が染まらない部分を作る「糊防染」の技法を使う。博物館では、江戸時代から受け継がれた12万枚の型紙を保存している。糊が乾いたら、色を出すための「地色糊」を全体に塗る。水洗いすると、地色糊に入った染料だけが残り、柄になる。糊を均一に塗るのが一番難しいという。

 

  もう一つの染物技法、江戸更紗は、人物、鳥、草花などを図案化したものだ。渋い色合いで、エキゾチックな感じの文様が多い。作業工程は小紋に近いが、糊の代わりに染料を塗る。この工房では、1反(約11メートル)を染めるのに通常36枚、多い時は300枚の型紙を使うという。

 

日本の明日へ繋げたい

  博物館では、毎月第3土曜日に体験教室を開いている。料金は2000円で、自分で柄を選び、型紙に糊を塗る。出来上がった作品は、工房が洗って乾燥させてから体験者に郵送する。今年5月、学校からネットで申し込んで、青森県の小学生4、5人がやって来た。浅野さんは誇らしげに、小学生がつくった染物を見せてくれた。浅野さんにとって、この小学生たちはもう「教え子」だ。

  今、14人の社員のうち、浅野さんを含む2人が「伝統工芸士」の資格を持つ。工芸士になるには12年以上の実務経験と、実技などの試験に合格することが必要だ。「難しいよ、この仕事。根気が必要だから。技を身に着けるのに10年もかかる。若い人はすぐ諦めるから。だけど、この日本の美しい伝統文化を未来へつないでいきたいね」と、浅野さんはしみじみと話した。

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※この記事は、10年度J-school授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

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